ガーベラの花束をキミに

「で、桜良は、美術部なの?」
「うん。そのつもり」
 めでたく、鈴の音に受かった私は、友達の運にも恵まれていた。
 入学してすぐに、しゃべれる友達ができた。
 ・・・ただ、1個だけ、ちょっとな〜ってのが、私の出席番号が、1番だ、ってこと。
 私の名字は、藍波(あいなみ)だから、1番が今までも、多かったんだけど・・・。
 違うクラスには、相澤(あいざわ)っていう人がいたらしいから、なんか悔しい。
「あ、藍波さん、って美術部入るの?」
「そのつもり、だけど」
「私もなの!この学校には、一ツ橋さまがいるから」
 一ツ橋さま・・・。
 なんで、さま、がつくんだろう?
「藍波さんも、知ってるでしょ!速水 凌(はやみ りょう)と仲良い、絵の天才!一ツ橋 奏眞先輩」
「あ〜、あの」
 あの、ガーベラの絵の。
 あの、イケメンの。
 やっぱりあの人、美術部入ったんだ。
「一ツ橋先輩とお近づきになれる、美術部!・・・あっ、別に一ツ橋先輩に近づきたいから美術部、って訳じゃないよ?絵、好きだし」
 ・・・ほんとかな〜?
 なんか怪しい。
「とっ、とにかく!一緒に見学、行こうね!」
「うん、行こうね」


「失礼しまーす」
「失礼、します・・・」
 にぎやかな美術室に入る。
 先輩たちから、注目されているのが分かる。
 うぅっ。
 逃げ出したい。
 今すぐここから居なくなりたい。
「あ、見学?」
「はい!1年1組の、不死川 咲茉(しなずがわ えま)です!」
「あ・・・。同じく、1年1組の藍波 桜良、です」
 はあ〜。
 なんか、な〜。
 美術部、入りたいんだけど、上手くいくかな?
「アイナミ、サラ?」
 どこからか、そんな声が聞こえた、気がした。
 ・・・気のせい、かな。
「美術部へようこそ!私は部長の花見 円加(はなみ まどか)です。ここでは好きなように過ごしてね!絵を描いても良いし、おしゃべりしても良いし、本を読んでも良いし、・・・宿題しても、良いよ?・・・あっ、でも、秋の文化祭には、みんな出展するから!別に共同制作でも良いよ!ふつーに、デッサンでも良いし、ちゃんとした絵でも良い。・・・まあ、大体自由だから!」
「活動日は、月、火、木の3日。用事があるなら、休んでも全然良いよ!・・・別に、この3日以外に来てもらっても良いよ!文化祭前とか、来てる子いるし・・・。あ、私は副部長の甲斐田 真(かいだ さな)です。よろしくね」
 花見さんと、甲斐田さん・・・。
 OK
 覚えた!
「じゃあ、みんな、進めてね!2人は、適当にその辺見といてね〜」
 適当に、って・・・。
「あ、仮入部のときは、みんなと同じように絵描いてもらうから」
 咲茉は、ルンルン、と先輩のほうへ行く。
 わあ、すご。
 社交的だなー、やっぱり。
「ねえ、アイナミ、さん、だよね」
「え?あ、はい」
 男子生徒に話しかけられる。
 誰だろうと思って振り向くと、そこにいたのは、一ツ橋先輩がいた。
「ねえ、アイナミさんってさ、絵で賞取ったこと、ある?」
「あ、はい。何回か・・・」
 咲茉は、こちらに全く気付いていない。
 一ツ橋先輩は、ポケットから、紙を取り出す。
「もしかして、『一筋の希望の光』描いた?」
「え、どうして、それを・・・?」
「見たんだよ。アイナミさんの絵。あのコンクールで」
 『一筋の希望の光』は、一ツ橋先輩の絵を見たあとに描いたものだ。
 やりたいことが決まって、私の人生に希望の光が差し込んできたから。
 確か、あの絵は、県知事賞をとったと思う。
「すごく、きれいな絵だな、と思って、覚えてたんだ。だから、名前聞いたときに、そうなのかな、って」
 一ツ橋先輩に、きれいな絵だった、って言ってもらえるなんて・・・。
 嬉しい。
 ものすごく、嬉しい。
 一ツ橋先輩は、「じゃあ」と言って、席へ戻っていく。
 私は、その後ろ姿を見つめる。
 先輩の絵が見える。
 晴れ渡る青空。揺れる木々。涙を流しながらも笑っている、少女。そして、・・・ガーベラの花束。
 ああ、またこの人は、花を描くんだ。
 ・・・私の嫌いな、"花"というものを。
「どうしたの、藍波さん」
 突っ立っていると、部長さんに話しかけられる。
「あ、いえ、なんでもありません」
「そう。ならいいけど・・・」
 咲茉が、こちらに気付き、やって来る。
「どしたー?桜良」
「ううん。なんでもないよ。ちょっとぼんやりしちゃって」
「そっかー。っていうかさ、やっぱみんな絵上手いね」
 こくりと頷く。
 正直、私はまだ、一ツ橋先輩の絵しか見てないんだけど。
 でも、一応頷く。
「雨、降りそうだねぇ。・・・あ、私傘ない」
 どんよりと曇ってきた、空。
 今日は、午後から雨予報だったっけ。
「私は、傘持ってるよ」
 独り言のように呟く。
「そうなんだー。・・・私さ、置き傘ないんだよねー。うち、お金ないから。5人兄妹なんだけど、みんな1人一本ずつしかないの。しかも、小さい頃から使ってるビニール傘」
 貧しい家だったなんて、聞いたことなかった。
 咲茉はいつも、あっけらかんとしているから、悩みなんてないと思ってた。
「咲茉はさ、欲しいものとか、ないの?」
 咲茉は、少し考えてから、こう答えた。
「私、欲しいものとか、よく分からない。今まで、ずっと欲しいものとか、我慢してきたからさ。だから、いつの間にか、なくなってたんだよね、欲しいもの」
 咲茉・・・。
 少し苦しそうな顔をする、咲茉。
「ご、ごめん。変なこと聞いちゃったね・・・・・・」
 そんな顔しないで・・・。
「ううん、大丈夫だよ。走って帰ればギリギリ間に合うかな・・・?」
「そう、だね」