帰りの車内。
運転する雅さんの斜め後ろに座る。
撮影帰りは、いつもこの位置だ。
「これ、美味しいな。モカロール」
「でしょ。雅さんはモカロールかなって」
「わかってるなあ、色香は。」
雅さんが静かにふっと笑う。
出会った時から雅さんのクセだったけど、
こういう仕草がちょっとだけ大人なんだなあと思わせる。
さっき撮影で使わせてもらったカフェのスイーツ。
「デートなふたり。」の撮影のあとは、
いつもその店でなにか買って帰るというのが、
私と舞くんの決まりになりつつある。
たいていは舞くんがごちそうしてくれるから、
私は甘えっぱなしだけど——
雅さんの分だけは、私が買っている。
「舞、あいつ最近また背伸びたよな。」
「そうなんだよね。」
「マネージャーのゆかりさんも背が高いから
ふたりが並ぶと圧倒されるよな」
舞くんのマネージャーさんも、ずっと専属。
ゆかりさんは、大手の事務所から独立したやり手のマネージャーさんだ。
打ち合わせとかに現れるとメイクさんとかがきゃっきゃと盛り上がっている。
私はたまにしかお話ししないけど、現場が一緒なのはもうずっとだから、
もうひとりの親みたいな感じ。
雅さんは、はじめから特に事務所に所属することもなく、
本当にずっとマネージャーをしてくれている。
服飾の専門のつながりの先輩のところにお手伝いがてら勉強に行ったり、
演出やプロデュースの勉強のためにマネージャー仲間と一緒にいろいろ出かけているみたいだから
本当に忙しそうだけど、
やりたいことに向かっている姿はやっぱりかっこいいなと思う。
こんなに探究心の強い雅さんの背中を見ているから、
私も頑張らなきゃと、思えるんだと思う。
「最近、悩んでるみたいだけどさ」
信号待ちのとき、雅さんがふとこちらを見て言った。
「無理に答え出さなくていいと思うよ。今のままでも経験で十分やれてるし」
「でも、最近うまくいってるって感じがしなくて……」
「そういう時期は、誰にでもある」
あっさりとした口調だったけど、
変に気遣うでもなく、褒めるでもなく、
そのままの言葉が心地よかった。
「はい、到着。きょうも早めに寝てよ、
明日は8時ね。」
「ありがとうございます。」
部屋に入ってすぐにいったんベッドに寝る。
悩みは消えないけれど、
雅さんはちゃんと私を見てくれている。
それが仕事なんだから当たり前か。
“自分のことをちゃんと見てくれている人がいる”ことに、
少しだけ、救われていた。
