戯れる相手は、愛しい人、



「…塗りにくい。」

私は身を屈めて足の爪を弄る。

「何やってるの?」

背中を預けてくれる彼は多分雑誌から目を離してないと思う。
「教えない。」

相手をしてくれない。というより、生返事をした彼に反抗して私はふてくされた。

でも、多分この液体の独特な香りで解ってると思う。

左手には小瓶、右手にはハケ。背中合わせで私と座っている彼は、背中にどんどん体重を掛けてくる。

もともと猫背で姿勢の悪い私にはキツくて、どんどん足の爪を装飾しずらくなる。

「重いよ、」

「じゃあ、何してんの?」

「匂いで解るでしょ?」

「解んない。教えて、」

こんな言い合いが続いて、私たちは笑った。

何で笑えたか解らないけど、気づいたら私も彼も笑ってた。


ケラケラしていると彼はドン、と私の肩を押し倒して。私は天井と彼のお顔と、『こんにちは。』


「僕が塗ってあげるよ。」

残念でした。あなたが私を倒したから左手にあった小瓶は倒れてフローリングに中身を広げているよ。

「こぼれてる。」

ボソッと呟いた彼は残念そうに眉をハの字にした、

「…ねえ、この色、似合うね。」

何の気なしに言った彼に自然に笑みがこぼれる。

「ありがとう。」

私が言うと彼も笑った。

「明日この色一緒に買いに行こう。」

彼からのデートの誘い。
それに私はキスで答えて。零れたペディキュアと一緒に髪の毛をフローリングに広げた。


"こぼれたぺでぃきゅあ"

(赤いペディキュアが零れて私の足の爪は中途半端に綺麗だったけど、彼のしるしが踝に刻まれた。)