わたしは白い車の助手席側の窓から顔を覗かせた。
すると、運転席に優木くんの姿があり、わたしに気付くと微笑み、内側から助手席のドアを開けてくれた。
「お疲れ。」
「お疲れ様、お邪魔します。」
そう言って、優木くんの車の助手席に乗る。
助手席って特別なイメージがあるけど、わたしが乗って良かったのかな。
そんなことを考えながら、わたしはシートベルトを締めた。
「仕事の後なのに、わざわざ迎えに来てもらっちゃってごめんね。」
「全然だよ。誘ったのは、俺の方だし。」
そう言いながら優木くんは車を出した。
「水曜日って、午前診療だけなの?」
「いや、俺が午前診療だけで、午後からは研修医時代からの友達の小児科医に当番医として来てもらってるんだ。」
「そうなんだ。小児科のお医者さんって大変でしょ?」
「んー、まぁ、ラクな仕事ではないかな。でも、どの職業だって違う大変さがあるじゃん。」
わたしの勝手なイメージだけど、"医者"という職業の人はプライドが高くて偉そうな印象があった。
でも、優木くんはそんなイメージとはかけ離れていて、"小児科医"という職業を鼻に掛けず謙虚で全く威張るような素振りもなかった。
「優木くんは、どうして小児科を選んだの?」
「んー、子どもが好きってのもあるけど、小児科ってさ、診察するのは子どもだけど、その子どもだけじゃなくて親御さんへの配慮も必要なんだ。親は、子どもの体調が心配で不安で病院へ連れて来る。その不安を和らげるのも診療の一つだと、俺は思っててさ。小児科医で意外と多いのが、親御さんへの配慮不足。医者からしたら大したことない症状でも、親からしたら大切な子どもの異変が不安なわけで、"これくらいで病院連れて来ないでください"なんて言う医者が居たりして。」
優木くんの話を聞き、わたしは「そんなお医者さんいるの?!酷い。」とつい言ってしまった。
「現実、居るらしい。だから俺は、子どもたちの些細な症状を見逃さないよう丁寧に診察するのを心掛けて、親御さんの不安が拭えるような、安心してもらえるような小児科医を目指してる。」
そう語る優木くんを、わたしはかっこいいと思った。
自分の仕事に誇りを持っていて、信念を持ちながら働いている。
自分の仕事に自信を持てないわたしには、優木くんが目が眩むほど眩しく見えたのだった。



