「優木くん。」
「あ、俺のこと覚えててくれたんだ。」
「そりゃあ、優木くんは有名人だったからね。それより、優木くんがわたしを覚えてることがビックリだよ。わたし、地味だったのに、よく存在知ってくれてたね?」
優木くんはわたしの隣まで来ると「春束のことは知ってたよ。どのグループにも属さないけど、誰とでも話せる人ってイメージがあった。」と言った。
そう、わたしは高校時代、どのグループにも属していなかった。
女子はギャルグループと地味グループがあって、わたしはその中間のどちらのグループとも話せる立ち位置に居た。
当時は眼鏡をかけていて、どちらかといえば陰キャ。
それなのに、優木くんがわたしを知ってくれていて、ましてや覚えていてくれたことが驚きだった。
「こんなとこでどうしたの?」
優木くんがわたしに訊く。
わたしは「ちょっと疲れちゃって。わたし、大勢の中に居るのが苦手でさ。」と答えた。
「分かる。実は俺も。」
「そうなの?それなのに、あんなに皆に囲まれて、疲れたでしょ?」
「参ったよ。質問攻めで、、、だから逃げてきた。」
そう言って、優木くんは笑った。
「さすが人気者だね。大変だぁ。」
「そんなことないよ。」
「周りの人の会話から知ったんだけど、優木くんお医者さんなんだって?」
「あぁ、まぁ。小児科医してるよ。」
「凄いねぇ!」
「うちの家系が医療関係の仕事ばっかだから、まぁ、必然的にそうなった感じではあるけど。」
「でも、そんな簡単になれる職業じゃないよ。」
わたしがそう言うと、優木くんは「ありがとう。」と柔らかく微笑んだ。



