憂いにひだまり


「あ、どうぞ。」
「失礼します。」

わたしは優木くんを中へ通すと、「飲み物は温かいのと冷たいの、どちらがいいですか?」と訊いた。

「じゃあ、冷たい方で。」
「冷たい飲み物は、ほうじ茶、アイスティー、アイスコーヒーがありますけど、どれにします?」
「アイスコーヒーでお願いします。」
「かしこまりました。」

いつもなら気楽に話せるわたしたち。

こんな緊張感の中、敬語で話すのは初めてだった。

わたしはアイスコーヒーを用意すると、優木くんが座るお客さん側のテーブルにコースターを添えてアイスコーヒーのグラスを置いた。

「ありがとうございます。」

そう言って軽く会釈する優木くん。

わたしはテーブルを挟み優木くんの対面に座ると、「今日はどのようなご相談ですか?」と訊いた。

「、、、実は、好きな人が居るんですが」

その言葉にドキッとするわたし。

"好きな人"

それを聞き、わたしの脳裏には優木くんに抱きついたあの女性が思い浮かんでいた。

「最近、何となく、、、避けられているような気がして、、、。彼女の気持ちが知りたいんです。」
「なるほど、、、。では、その人の情報を、、、名前でも生年月日でも何でも良いので、教えていただけますか?」

わたしがそう言うと、優木くんはこう答えた。

「名前は、、、春束咲弥さんといいます。」