まって、後輩くん

「……その、ちょっと考えてただけ。色々と」









「色々って?」







追い詰めるような口調じゃない。むしろ、傷つかないように聞いてくれているのがわかる。だから余計に、胸が痛かった。










「……夏目くんといると、ドキドキしちゃうから……」













ポツリと落としたその言葉に、夏目くんの目が少しだけ見開かれる。













「好きとか分かんないけど……。でももしまた誰かを好きになって、同じように振られるのが怖いの。だからつい避けちゃってた……」













しばらく沈黙が流れて——その静けさを破ったのは、夏目くんの小さな笑い声だった。









「……そういうところ、ほんと可愛いですよね、先輩」






「え……?」









「ちゃんと不安なこと、言葉にできるのってすごいことです。俺なんか、先輩の前だと大人ぶりたくなって、強がってばっかですから」










夏目くんは少しだけ視線を落としてから、ふわりと笑った。








「先輩が距離を取ってたの、俺のこと嫌いになったんじゃないかって思ってました」



「そんなわけないじゃん……!」

 

慌てて言い返した私に、夏目くんはほんの少しだけ近づいた。

 

「だったら、もう少しだけでいいから。俺のこと、避けないでください」

 

その距離、指一本分くらい。

でも、その近さがどうしようもなく心地よくて、怖くて、愛しくて。

 

「……うん」






私の返事に、夏目くんの目が優しく細められる。





きっと私は、もうこの人から目を逸らせない。

少しずつ、ゆっくりと。今度こそ、ちゃんと誰かを好きになる準備をしてるんだ——そんな気がしていた。