私は君が好きで、君は二次元の私に恋してる

「リュシアン、先にお風呂はいる?」



 キッチンからリビングをのぞくと、彼はソファでだらけた猫のようにくつろいでいた。

 その気だるげな姿に、私は思わず口元が緩む。

 二人分の夕飯を作り、食べて、今は洗い物の最中。シンクに並ぶ二人分のお皿とコップが、なんだか嬉しかった。



『誰かと暮らす』って、こういうことなのかもしれない。



「ああ。じゃあ、そうさせてもらう。大浴場のことだな?」

「…自分の世界と一緒にしないでくれる。ここ、庶民の家って事を忘れないでよね。」

「じゃあ、それに入る。」

「うん、下着とパジャマとかは、お父さんの押し入れの中から適当に取っていって。ここから出て、左がお父さんの部屋だから。」



 彼は、頷いたようなそぶりを見せてから、父親の部屋へと入っていった。

 その背中を見送った私は、またキッチンへ戻り、洗剤の泡を立てながら、なんだかふわふわした気分に包まれていた。



 水道の蛇口を開けて、洗剤がついたお皿を洗い流す。綺麗になっていくのが、いつもより、ずっとうれしかった。

 こんなにも、人のぬくもりを感じる暮らしが、心を豊かにするなんて。



 思わず、小さな鼻歌が漏れそうだった。





「おい! ちょっといいか。」



 脱衣所から、少し低めの声が響く。



 なんだろう。



 私は、洗い物の手を止めて、タオルで手を拭きながら慌てて向かった。



「はいはい! 今行くから!」



 扉越しでも分かる、彼の身体のシルエット。



 この扉を開けたら、どんな世界が待っているのだろう。



 ま、まさか、ね? 



 ありもしないことを、頭の中でふわふわ考える。



「シャンプーとリンスはどこだ。文字が読めない。」

「シャンプーは右で、リンスは左!」

「ほんとか?」



 彼の不安そうな声に、私は、つい、ガチャン、と、ドアを開けてしまった。



 すると、彼の素の姿がそこにはあった。

 湯気の暖かさで、余計に私の顔も熱くなる。きっと、それだけじゃ無いと思うけど。



 白い肌、鍛えた腹筋、したたる滴で髪の毛が濡れている。

 長い髪の毛をかきあげ、唖然とする私と目が合った。



 そして、見てはいけない領域まで、目が勝手に滑って――



「ぎゃああああああ!!」



 反射的に、バンッとドアを閉める。なんだか、みてはいけないものを見た気がするからだ。



「アンタ、わざとやってる?」

「ごめん!! 多分あってる、それ合ってるから!!」



 心臓はバクバクで、耳まで熱い。

 私は、その場で力が抜け、その場でしゃがみ込んだ。



 彼のシャワーの音だけが鳴り響く。

 耳まで真っ赤で、声も上ずる。



 見てない、見てない、絶対見てない。



 ……でも、ちらっと……いや、そんなこと、考えちゃダメ。



 それに、なんであんなに堂々としてるの。



 普通、女の子に裸なんて、恥ずかしくて、簡単に、見せれないはずよね。もしかして、私の考えが子ども過ぎる? リュシアンの世界では、そういうことにオープンなわけ?



 も、もしかして、リュシアンって、もう、他の女と…!?



 確かに、想像できる、あの体つきと、女を魅了させられるコミュ力、異次元過ぎる美貌…



 それに、さっきの、さっきのあの、あの、リュシアンの、アレ…!



「ばか! リュシアンの変態!! 」



 私は、咄嗟に扉越しにそう叫ぶ。



「は?」



 彼は、今まで聞いた中で、一番低い声でそういった。お風呂だから、声が更に響いて聞こえ、私の耳がおかしくなる。



 なんだか、彼は、そういう場面になったら、そうやって、低い声で攻めるんじゃないかと思うと、更にドキドキした。



 もう、あんなの見ちゃったら、この後、寝るときのこと、想像しちゃうよ…。



 あーもう! 私も、本当にバカ!! 



 期待なんかしてないし!



 私は、その場で、真っ赤に熱くなったほっぺたを強く自分で叩いた。