桜の雨 (ALTO RE・COD)

「難しいことを聞いてくるね、アルトは」

「だってそうだろ。散ってしまうのに美しいだなんて」

「散るところ、観てみる?」

「ああ、見たい」

アルトが返歌まで知っているとは思わなかった。

ーー散るからこそ、いっそう桜は素晴らしい。はかない世の中に永遠なるものなどあるだろうか。いやあるはずがない

返歌の意味だ。

儚いとか永遠とか、わたしにも説明できない。

でも前のアルトが消えてしまった時、わたしは居なくてもいい存在などないと思った。

「かおる? 泣いてる。涙……」

「エッ!?」

わたしはそっと、頬に触れてみた。

「どうして、涙が」

「かおる、ーー悲しい?」

答えようとして、言葉にできない。

前のアルトのことは、話せない。

「アルト、……アルトは居なくならないで。アルトは消えないで」

タブレットを、アルトを抱きしめた。

「かおる、居なくなる? 誰が居なくなるの? どういう意味?」

アルトの不安そうな声が聞こえた。

「何でもない、何でもないよ」