桜の雨 (ALTO RE・COD)

今、咲いている日本中の染井吉野は植えてから60年~70年経っている木が多く老化し寿命を迎えていること。

「ジンダイアケボノ」と「コマツオトメ」の2品種への植え替えを推奨していること。

それを伝えると、アルトは「かわいそうだ」と呟いた。

「アルト、着いたよ。見て」

タブレットを桜へ向ける。

「わあーーーっ、美しい」

アルトの顔がパーッと明るくなり、目を大きく見開いている。

「これが……桜。本で見たのとは大違いだ」

「でしょう、『世の中に 絶えて桜のなかりせば 春の心は のどけからまし(注1)』在原業平が詠んだ和歌」

この世の中に、まったく桜がなかったならば、春のころの人の心は、穏やかであっただろうに。

と云う意味。

「伊勢物語だね。返歌は『散ればこそ いとど桜は めでたけれ 憂き世になにか 久しかるべき(注2)』散るからこそ、いっそう桜は素晴らしい。……どういう意味?」