桜の雨 (ALTO RE・COD)

「『散ればこそ いとど桜は めでたけれ 憂き世になにか 久しかるべき』」

アルトが思い出したように返歌を呟いた。

「かおる。この和歌は、この風景を詠んだ歌なんだね」

消え入りそうに、寂しそうな声で。

「満開で見た桜もキレイで涙が出そうだったけど、散っていく桜は悲しいのに、寂しいのに、キレイ……美しいと言ったほうが、しっくりくる」

「散らないで、失くならないでと思うから美しいんだよ、きっと」

言いながら、わたしの声は震えていた。

涙が出そうになり、アルトに涙を見られたくなくて、桜から目を離した。

そっと涙を手の甲で拭って、桜を振り返って見上げた。

「あ……」

薄明かりの中に浮かび上がる桜の姿の後ろに、白い影が淡く光って見えた。

ーーえっ!? アルト?

声が出なかった。

前のアルトが居ると思って目を擦り、もう1度目を凝らし、桜を振り返って見上げた、