大嫌いなパイロットとのお見合いはお断りしたはずですが

「でも、なんか……どうして……? わたしだけかと思ってました」

 朋也が初めて、驚きをあらわにしてわずかに身を引いた。
 意外なものでも見るように凝視され、美空はもうやめてほしいと心の内で訴える。真っ赤になった顔だけで、すでに伝えているようなものではないか。
 行動する気ではいたが、まさかこんなに早く口にするときが来るとは、思っても見なかったのだ。

「噂が事実になれば……って思わずにはいられませんでした。何回も、それは沖形さんに失礼だと戒めたんですけど」
「――美空」

 ひときわ甘く蜂蜜のようにとろりとした声で呼ばれ、美空は息をのんだ。
 みじろぎもできない。
 さながら、見えない鎖で拘束されているかのようだった。その鎖を持っているのは、不遜にすら見える笑顔を浮かべた朋也だ。

「美空のこと、俺がもらっていい?」

 懇願のようで、まったくそうではない。朋也の目を見れば、美空の返事を確信しているのだと知れる。
 朋也は、美空が「はい」と答えるのを待っている。
 美空は少し考えてから、一歩朋也のほうへ近づいた。胸が高鳴ってしかたがない。

「……ひとつだけ、わたしのお願いを聞いてもらえますか?」

 朋也が虚を突かれた顔をした。

「わたしにも、沖形さんを……もらえるのなら」

 朋也の顔がほころんだ。今にも噴き出しそうな、それをどうにかこらえているような顔。
 朋也は「ふは」と吐息で笑うと、ひと息に美空を胸に収めた。

「きゃっ……」
「どうぞ、丸ごともらってくれればいいよ。ただ、その分俺もそうするけど」

 深く抱きしめられたあとで、朋也がわずかに離れる。頭がじんと痺れて、惚けたように朋也を見つめると、長い指が耳元に触れた。
 後れ毛を耳にかけられる。
 そのまま手は頭のうしろへ滑り、美空は顔を上げた。
 
 ――ごく自然に、朋也のキスを受け止めていた。