大嫌いなパイロットとのお見合いはお断りしたはずですが

「気遣ってくださるのは嬉しいです。でも、貴重な休息の時間を使うほどじゃないでしょう。フライトの足枷になる可能性のあることを、あんなに避けてらっしゃるのに……!」

 美空は声を上ずらせ、タクシーのほうへと朋也の背をぐいぐい押す。
 貴重な時間を美空に割いてくれて、たまらなく嬉しい。それは美空の偽らざる気持ちだ。
 だけど同時に、朋也の足を引っ張るのだけは、なにがあっても嫌だった。朋也に対して特別な気持ちを抱いているからこそ。

(ううん、その気持ちがなくても。沖形さんはわたしの憧れの……パイロットだから)

 憧れた職に就いたひとの、陰の努力を台無しにさせたくない。
 パイロットに就くのはもちろん大変だが、パイロットであり続けることのほうがどれだけ大変か、美空はよく知っている。
 フライト前に必ず行われるアルコールチェック。年に二度の身体検査。もちろん、技能検査もある。シミュレーターを使用した検査と、実際のフライトに審査官を乗せての定期審査。不合格になれば、乗務できなくなる。
 さらには型式限定免許の取得訓練や、機長昇格試験も待っている。
 どれもこれもたゆまぬ努力がなければ、クリアできない。

「フライトの邪魔にならないとわかっていたからね。邪魔どころか、この時間が俺の休息」
「そうやって相手を喜ばせることばかりおっしゃるから、皆さんが好き勝手に噂するんですよ。あっ、ちゃんと否定しておきましたから、沖形さんは心配なさらなくていいんですが」
「噂? なんだろう。気になる」
「いえ、大したことでは」
「困ったな。気になったままじゃ、乗務に支障が出るかも」
「ほんっとうに大したことじゃないんですが……沖形さんが……オペセンに殴りこみをかけたとか一騎打ちだとか……あげくの果てにはわたしと付き合ったとか……! とにかく、根も葉もないことばっかりですよ」

 口ごもりながら訴える美空と反対に、朋也はいたって平然と「ああ、この前の」と言葉を継いだ。

「俺が瀧上さんの前で『美空がほしい』と言ったからか」
「……!?」

 さらりと告げられた言葉の衝撃に、美空は目を見開いた。