大嫌いなパイロットとのお見合いはお断りしたはずですが

 撫でられるというほどでもない、羽根が触れるほどのかすかな感触。
 なのにその瞬間、微弱な電流を通されたかのように、触れられた場所が甘く痺れた。

(ああ、もう。とっくに手遅れだった)

 否定も、見ないふりも、できそうにない。
 流れていく車窓を目の端にとらえながら、美空はとうとう自分の感情を認めた。
 一度認めてしまえば、その感情はふしぎなほどしっくりと、美空の心のもっともやわらかな場所に根ざしていった。


 
 覚悟を決めるのにひとより時間がかかるが、一度決めたら行動は早い。
 その性格を映すように、美空はマンションの前でタクシーを降りると朋也をお茶に誘った。
 朋也の気持ちはわからない。美空によくしてくれてはいるが、追いかけられたら面倒だと思うタイプかもしれない。
 だから美空が今できるのは、この気持ちを押しつけず、だけど心のままに行動することだけだ。
 ひとまずは、先日のお礼をしたいという思いもある。
 まだ夕方だから家に上げても変な意味に取られることはないだろうと思えたことも、一歩踏み出す後押しになった。
 ところが朋也は駐車場で待たせたタクシーに目をやり、残念そうに断った。

「実は、夜の便でウィーンに飛ぶんだよね」
「えっ!? 今日は終わりじゃなかったんですか?」
「うん。空港に戻るよ。だからまたの機会にさせて」
「それをもっと早く言ってください! こんなところに来てる場合じゃないじゃないですか。長時間のフライトなのに……」

 今しがたまでの甘やかな気持ちも吹っ飛び、美空は慌てふためいた。まさか、フライトの合間を縫って送ってくれたとは思いもしなかった。

「これは俺の希望なんだって。美空の顔を見たかったから」