大嫌いなパイロットとのお見合いはお断りしたはずですが

 寒い寒いとふたりで言い合い、だが朋也はさほど寒くもなさそうに、たしかな足取りで本社ビル裏の車寄せに回る。
 そこにはタクシーが停まっていた。朋也が手配してくれたのだろうか。

「颯爽と自分の車で送りたいところだけど、持っていないんだ。もっとも、所有したとしても、ほとんど使わないだろうけど」

 タクシーに乗りこんで目的地を伝えると、帰宅ラッシュの直前の街をタクシーが静かに走りだした。

「所有しても乗らないのは、空港の近くにお住まいだからですか?」
「それもあるけど、渋滞や事故に巻きこまれて乗務に支障が出るリスクを少しでも減らしたいから」
「沖形さんは、骨の髄までパイロットなんですね」

 一緒にいると、わかる。朋也の思考はつまるところ、すべて安全運航の遵守に行きつくのだ。
 乗務中でなくてもパイロットであろうとする。
 それが一流のパイロットの証だろうと思うと、以前ほどの焼けつくような痛みは襲ってこなかった。

「ほんとうに骨の髄までなのか、たしかめてみる?」

 思わせぶりに言うと、真顔になった朋也がやにわに体を近づけてきた。
 コートの襟から覗く首筋の男らしさにどきりとする。と同時に、先日のマスク越しのキスを思い出してしまい、美空はとっさに朋也を押し返した。

「なっ、急に変なことを言わないでください。困ります」
「よかった。顔を見ただけじゃ油断できなかったから、今の反応でやっと安心した」

 美空は、朋也の端整な横顔がゆるんだのに気づいた。そんな顔は初めてだった。

(わたしを心配してくれてたの……?)

 仕事以外では近づく女性とろくに向き合わず、追い払っていたのに。
 飛行機の操縦以外には関心がないと、言いきっていたのに。
 とたん、鼓動がさっきよりも甘やかな音を鳴らし始める。うなじの毛が体を離した朋也を意識してそわつく。
 美空の回復をたしかめるように、すらりとした指の背が頬をかすめて離れた。