大嫌いなパイロットとのお見合いはお断りしたはずですが

 焦って周囲を見渡し、美空はエレベーターホール横の非常階段に身を滑りこませた。
 空調の効かない非常階段は、換気のためか風が吹いている。美空はスマホを握るのと反対の手で、腕をさすった。

「もうばっちり、元気です。この前は色々と……ありがとうございました」 
『今日は何時上がり? 送るよ』

 大げさなくらい肩が跳ね、美空は誰の気配もないのについ周囲をうかがった。
 自分でも挙動不振になっているのがわかる。

「元気なんですって。お気遣いは不要です……! 今日はもう、早朝から仕事を再開していますし、ちゃんと帰れます」
『早番だったんだ、ちょうどいいな。終わったら連絡して。勝手に倒れられたら困るから』
「や、ですから大丈夫で」
『口ごたえしない。治ったと思って無理をしたときが、いちばん危険なんだ。おとなしく俺に送られて。わかった?』
「わかりました……」

 とうとう美空は観念した。なるようになれという気持ちもある。
 しかし、ほんとうに甘えてしまっていいのだろうか。
 パイロットこそ体力勝負の仕事だ。休めるときには休んでほしい。
 おそらく朋也の頭には弟のことがあって美空を放っておけないのだろうが、そのせいで朋也の足を引っ張ることになったら後悔してもしきれないと思う。
 そんな逡巡が頭の隅にありつつも、業務に追われるうち、気がつけば仕事上がりになっていた。
 オペセンを出て朋也に連絡すると、ロビーに降りろという。そのとおりにすると、朋也はエレベーターのすぐ脇の壁にもたれていた。

「もしかして、待ってくださってましたか?」
「いや、俺もさっきデブリが終わったとこ。行こう」

 外に出ると、とたんに十二月の乾燥しきった風が吹きつけた。
 美空はたっぷりと巻いたストールに、顔をうずめるようにする。横目で朋也と自分の格好を比べて気後れした。やはりコートを新調したくらいでは、抜群の容姿を持つ朋也に吊り合うわけもない。
 冷たい風にロングコートをなびかせた朋也は、まるで雑誌から出てきたモデルのようだ。下は制服らしく、コートの袖口から紺色のジャケットに施された金の三本線がちらりと見える。
 パンプスを履いた美空と比べても、優に頭ひとつ分は背が高い。美空は眩しい思いで朋也を見あげた。

(絵になる男性よね。皆が騒ぐのもわかる……)