大嫌いなパイロットとのお見合いはお断りしたはずですが

 生姜焼きには甘めのタレがかかっていたはずなのに、生姜の辛味がやけに喉に引っかかる。美空は冷たい水に手を伸ばした。
 こんな根も葉もない噂が伝わったら、朋也はさぞかし迷惑だろう。想像しただけで冷や汗が出る。
 それまでテンションの高かった橋丘が、初めて戸惑ったふうにパスタを食べる手を止めた。

「え……でも、その沖形さんが、木崎さんを――」
「とにかく違うから! ごめん、わたし仕事を思い出したから先に行くね」

 美空は生姜焼きが半分以上残ったままのトレイを返して社員食堂を出たが、動揺が収まらなかった。
 具体的な出来事は判然としなかったが、橋丘たち一部の社員が勘違いしているらしいことに頭が痛くなる。
 朋也が噂を耳にして不快感を覚える前に、釈明しなくては。
 だけどその一方で、美空は気づいてもいた。

(わたしは……わたし自身は、嫌じゃなかった)

 美空は気持ちを落ち着けるべく、スマホを取り出す。とそのタイミングを見計らったようにスマホが振動した。
 たった今、噂されたばかりの人物の名前からの着信だった。
 美空は自分でも止められないほど赤面した。


 
『病み上がりだけど、大丈夫? 倒れていない?』

 開口一番そう告げられ、美空は腰が砕けそうになった。
 気にかけられていたという事実も、もちろんある。
 だがそれよりも胸の内側に入りこんできたのは、耳朶をそっと撫でるような、あまりにも甘やかな声だ。