大嫌いなパイロットとのお見合いはお断りしたはずですが

 あれは、いったいなんだったのか。
 信じられないことではあるものの、なにをされたか――はもちろん理解している。
 さすがに、それがわからないと言うつもりはない。恋愛と縁遠い人生を送ってきたとはいえ、美空もキス……がわからないほど初心でないのだ。
 わからないのは、その理由だった。なぜキスされたのか、まったく、一ミリもわからない。
 あの翌日も朋也は美空の様子を見にきたが、まるで何事もなかったかのような様子だった。
 だから美空もなんとなく聞けずじまいだった。

(きっと、意味なんてない。だからわたしも忘れたほうがいいのよね)

「――木崎さーん、フロア着きましたよ。降りないんですか?」

 美空はわれに返った。早朝のエレベーター内には、美空ともうひとりの女性社員だけだった。彼女もおなじオペセン所属の同僚だ。

「風邪はもういいんですか? 無理しないでくださいね」
「ありがとうございます」

 エレベーターを降り四日ぶりにオペセンに足を踏み入れた美空は、ただならぬ雰囲気に足を止めた。
 フロアのあちこちから、いっせいに視線を浴びせられたのだ。

(えっ、なに……?)

 元からオフだった日を除いても二日も休んでいたのだ、冷たい視線を浴びるのもしかたない……とは思うものの、どうも違和感がある。
 強いていうなら、隠しきれない好奇心が覗いているといったところだろうか。かといって、物珍しさともまた違う。
 そのくせ、目が合うと気まずげに逸らされる。もしくは含み笑いを向けられる。
 なぜなのかわからないまま隣の瀧上に挨拶して自席につくと、彼まで気まずそうに顔を背けた。