*
意識の遠くのほうで、ピンポンという高い電子音が聞こえた。さらに間を空けてもう一度。
自分がその音にどう反応したのか、記憶はゆらゆらと揺れてあいまいだ。
「木崎さん、木崎さ……美空、美空っ」
泥に沈んでいる意識を引きあげようとする声が心地よい。誰だろう。
美空は目をつむったまま、声の主に返答する。
「んん……」
「あー……よかった。ドアを開けてくれたのはありがたいけど、そのまま廊下で寝られると焦る。ほら、捕まって。ベッド行くよ」
ふわ、と美空の体が浮遊感に包まれた。
たくましい腕に、横抱きされているらしいと頭の隅で考える。まるで、幼い子どものころのようだ。美空は心地よい安心感に包まれ、されるがままに体を預けた。
次に意識がはっきりしたとき、美空はベッドに寝ていた。
二度まばたきをし、それから渇いた喉を鳴らす。カーテンから漏れる光はなく、とっくに夜も更けているようだった。
身じろぐと、遠のいていた全身の怠さがたちまち戻ってくる。たまらず呻いたとき、寝室のドアがノックされた。
返事をするまもなくドアが開き、足音が近づいてくる。
「っ……え?」
美空は仰天して跳ね起き、鈍い頭痛に体を丸める。
目の前にいるのは、朋也ではないか。
(どういうこと? わたし、呼んだっけ!? うそよ、そんなわけない)
しかも朋也は制服を着たままだ。美空は混乱を極めたが、朋也はいっさいのためらいを見せずにベッドまでやってきた。
「あ、起きた? 具合はどう?」
「沖形さ……ど、ここ……」
どうしてここにいるのかと訊きたいが、喉が痛くて声にならない。それでも朋也には通じたらしい。
「瀧上さんに、美空が風邪をこじらせていると聞いて来た。俺が来なかったらどうするつもりだったの。熱も高いし顔色も悪い……その様子じゃなにも食べてないね?」
「沖が……帰っ……」



