大嫌いなパイロットとのお見合いはお断りしたはずですが

「感情を出すのは悪いことじゃないだろ。仕事に明け暮れて、感情をないがしろにするよりはいい。木崎はそうでなくても、頑張ろうと気を張っている部分があるから」
「そうでしょうか? でも……」
「親父さんだって、娘にわがままを言われたほうが嬉しいんじゃないか?」
「え、父?」
「あれ、違ったのか。じゃあ誰に……」

 みるみる顔が火照り、美空はとっさに目を伏せた。
 こんな顔、瀧上に見られたくない。あんなに毛嫌いしていた朋也だと、気づかれたくない。
 と、そのときまさに心の内に浮かんだばかりの名前が、耳に飛びこんできた。

「――沖形さんって、前より感じがよくなったと思わない? ほら、パイロットの」

 女性社員ふたりが、休憩室に入ってくる。
 首から下げたネームカードを見るまでもなく、おなじオペセン所属だとわかった。どのクルーをどの便に乗せるかを調整する社員で、美空もフライトプランの作成時には世話になることが多い。

(やだ、なんか心臓が……)

 騒ぎだしたのがわかる。
 そのくせ、瀧上への返事も忘れて耳はふたりの会話を拾っていく。ショートボブの女性が「私もそう思ってた」と同意した。

「前もカッコよかったけどね! でも前はこう、『お前なんかお呼びじゃない』みたいなスカした感じがあったよね。や、ほんとうに私ら一般社員じゃお呼びじゃないんだろうけど、壁を作られてる感じっていうの? それが雰囲気変わったと思う。向こうから挨拶してくれるようになったし……やわらかくなったっていうか。なにかあったのかも」
「それはやっぱり、女でしょ。恋人ができたんじゃない?」
「ええっ!? だったらショックー。って、目の保養にしてただけだから、いいんだけどね。やっぱり相手はCAの誰か? 絵になるだろうなぁ。その分、周りの嫉妬もヤバそうだけど」

 心臓がひときわ大きく跳ねあがった。