大嫌いなパイロットとのお見合いはお断りしたはずですが

(これだから、冷静で頭の切れるひとは嫌……!)

 平静で余裕のある態度で、状況を整理してくる。澄ました顔で、美空の心をむき出しにしようとする。
 だから、自分だけがなにもかもさらけ出されそうで怖い。これまでまとってきた鎧が朋也の前では無様に剥がれそうで、本能が危険を訴える。
 朋也にコーヒーが、美空にカフェオレが運ばれてくると、少しだけ平静を取り戻すことができた。

「沖形さんは何度も『逃げた』とおっしゃいますが、それこそ勘違いですよ。空港まではたしかに行きましたけど、別の用事ができただけです。帰った原因は、沖形さんとは無関係です」

 美空は「逃げた」事実もなかったことにするほうを選んだ。
 逃げたと白状して、心の奥のぐちゃぐちゃした気持ちを見透かされたくない。
 ところがそのとたん、コーヒーを飲みかけた朋也の顔色が変わった。

「別の用事って、あの男?」
「……え?」

 美空は目をしばたたかせた。
 朋也の目に、見たことのない感情が乗っていた。
 いつもの悠々とした感じが剥がれ落ち、初めて剥き出しの感情を見せられている。しかもそれは荒々しかった。
 なにが起きたのか理解が追いつかない。

「木崎さんと一緒にいたあの男、瀧上だっけ。彼と付き合ってるの?」
「えっ、なにを……瀧上さんがどうして急に」
「さっきロビーですれ違った。今日も瀧上と帰る予定だった? 今も彼は近くで木崎さんを待ってるの?」
「なにを言ってるんですか。そ、そんなこと沖形さんにはどうでもいいでしょう」
「いや、ものすごく知りたいね。目的地までの状況は正しく把握しないと、操縦を見誤る」

 フライトとは話が違うし、なにが言いたいのかわからない。
 瀧上とのことを変に探られるのも、いい気分ではなかった。美空はカフェオレに口をつける。
 思いのほか苦く感じられた。