美空はコートを脱ごうとして思わず顔をしかめた。先日ついに、仕立てのよいパウダーブルーのコートを購入したのだ。
女性らしいシルエットが気に入ったのだが、今から思えば、コートを新調したところでなにが変わるわけでもない。これで素敵な女性に近づけるかもしれないと、胸を弾ませて試着したときのことが色褪せて見えた。コートの下は、おのれの分を忘れて舞い上がっていた恥ずかしい自分。
中は制服のままでもあるからか、朋也はコートを脱ごうとしなかった。テラス席の先客である女性たちから熱い視線を浴びても素知らぬ顔だ。
自分が女性の目を惹きやすいと熟知した振る舞いが、ことさら引っかかる。
この感情をもっとはっきり表すなら、不快だった。
アイアン製のテーブルに落ち着いて注文を終えるなり、朋也が切り出した。
「木崎さんが走っていったあとも、あの場で待ってたんだよね。デブリでいったん離れたけど、また戻ってね。そのときになって初めて、逃げられたらしいと気づいたわけだけど、どう考えても理由が理解できなかった。なんで?」
「……わざわざ理解する必要もないでしょう? わたしは行くとも言ってませんし」
目の奥に、美人のCAに腕を絡められて満更でもない様子の朋也がちらつく。知らず声が刺々しくなった。
「木崎さんは、約束を黙ってすっぽかすひとじゃない。というのが俺の見解だけど」
「その見解は、ぜひ今からあらためてください。約束したわけじゃないですし、わたしにも会いたくない相手はいます」
「それが俺? でもおかしいな」
「なにが……」
「だって木崎さんは、すっぽかさずに待っててくれてる。だから今ここにいるわけだよね」
「っ!」
「だから、俺から逃げた理由があるはずなんだけど」
美空はとっさに、メニュー表を勢いよくテーブルに立てて顔を隠した。顔から火が出そうだった。
女性らしいシルエットが気に入ったのだが、今から思えば、コートを新調したところでなにが変わるわけでもない。これで素敵な女性に近づけるかもしれないと、胸を弾ませて試着したときのことが色褪せて見えた。コートの下は、おのれの分を忘れて舞い上がっていた恥ずかしい自分。
中は制服のままでもあるからか、朋也はコートを脱ごうとしなかった。テラス席の先客である女性たちから熱い視線を浴びても素知らぬ顔だ。
自分が女性の目を惹きやすいと熟知した振る舞いが、ことさら引っかかる。
この感情をもっとはっきり表すなら、不快だった。
アイアン製のテーブルに落ち着いて注文を終えるなり、朋也が切り出した。
「木崎さんが走っていったあとも、あの場で待ってたんだよね。デブリでいったん離れたけど、また戻ってね。そのときになって初めて、逃げられたらしいと気づいたわけだけど、どう考えても理由が理解できなかった。なんで?」
「……わざわざ理解する必要もないでしょう? わたしは行くとも言ってませんし」
目の奥に、美人のCAに腕を絡められて満更でもない様子の朋也がちらつく。知らず声が刺々しくなった。
「木崎さんは、約束を黙ってすっぽかすひとじゃない。というのが俺の見解だけど」
「その見解は、ぜひ今からあらためてください。約束したわけじゃないですし、わたしにも会いたくない相手はいます」
「それが俺? でもおかしいな」
「なにが……」
「だって木崎さんは、すっぽかさずに待っててくれてる。だから今ここにいるわけだよね」
「っ!」
「だから、俺から逃げた理由があるはずなんだけど」
美空はとっさに、メニュー表を勢いよくテーブルに立てて顔を隠した。顔から火が出そうだった。



