大嫌いなパイロットとのお見合いはお断りしたはずですが

 いつもそうだ。
 朋也といると感情が揺さぶられてしまう。それも、美空にとって望ましくない方向にだ。
 よほど帰ろうかと何度も思った。美空よりあとに仕事を上がった瀧上に追いつかれたときには、こんな場所に留まっている理由を尋ねられて言葉に詰まった。
 だがけっきょく、この場を離れられなかった。
 制服の上にグレーのロングコートを羽織った朋也が現れたのは、美空がいくつものエレベーターを見送ってからだった。

「はあ……やっと話ができる。手こずったよ」

 厄介だと言わんばかりに眉を寄せて、朋也が足音も荒々しく美空に近づく。美空は待つのではなかったと後悔した。

「なぜですか? わたしと話すことなんて、ないじゃないですか」
「それこそなんで? 俺と目が合うなり逃げたよね」
「それは……っ」

 逃げたのに気づかれていたのかと頬が熱くなったが、エレベーターからひとが降りてくるのが見えて美空は口をつぐんだ。
 朋也が「場所を移そう」と美空の背を軽く押す。
 こんなときでもごく自然に触れてくる朋也に、恨みがましい気持ちが湧いてしまう。
 しかし人目につきたくないのは美空も同様だ。渋々、朋也について本社ビルを出た。
 徒歩五分とかからずに着いた場所は一軒のカフェだった。
 打ちっぱなしのコンクリート壁と無垢材を張った床が絶妙にセンスよく感じられる。ナチュラルな風合いのテーブル席の奥に、ゆったりくつろげるソファ席があるのもいい。
 食事どきではないにも関わらず、店内は女性客が多く、目を惹く容姿の朋也が店内に入ると視線が彼に集中した。

「テラス席でいい?」

 テラス席は無垢材のウッドデッキになっており、店内の観葉植物とテイストの似た植栽が、通行人からの視線を遮っていた。
 今日は季節が逆戻りしたかのようにあたたかい。表の適度な喧騒もあり、ここならひとに聞かれる心配もなさそうだ。