大嫌いなパイロットとのお見合いはお断りしたはずですが

 なぜか、エレベーター内の温度が下がった気がした。朋也が美空のほうへ身を乗り出す。なぜか視線は瀧上に向けたままだ。

「そうだ木崎さん。もっと話してくれるって言ったよね。上海から戻ったらでいい?」
「えっ? あ……」

 この前のやり取りかと気づいて美空が顔を上げると、満足した様子で朋也がうなずいた。

「また連絡するよ」

 朋也はさらりと言い、ふたたび瀧上を見やってから先にエレベーターを降りていった。

「……追い払うまもなかったな。あの男、木崎につきまとってるのか?」

 オペセンのあるフロアでエレベーターを降りた瀧上の表情が険しい。つい今しがたまでの和やかな雰囲気からの急変に、美空は戸惑った。
 もしや、先日の『追い払ってやる』は本気だった……のだろうか。

「いえいえ! 業務について尋ねられただけです。大丈夫ですよ」

 嘘は言っていない。
 朋也は実際、運航支援の業務を知りたがっていただけだ。
 そうでなければ、美空も【次にお会いしたとき】などと返信するはずがない。

(そう、業務。だからあのとき返信したわけで)

 今さらながら自分の行動を説明づけることができると、動揺していた心が落ち着きを取り戻した。

(だから、今のやり取りだって業務の一環で……)

 せっかく落ち着いた心が、羞恥に染まっていく。さっきの美空は、なにかを期待したのではなかったか。
 たとえば、朋也とまた会うといったような。
 美空は顔の火照りを隠すべく目を逸らしてオペセンに入り、そそくさと自席についた。

「もし迷惑なら、なんとかしてやる。だからそのときはすぐ言えよ」
「っ、……ほんとうに、大丈夫です」

 隣に座った瀧上の妙に真剣な口調にのまれ、美空は言葉に詰まった。
 大丈夫、問題ない。
 朋也とは業務上、接する機会が少し増えただけ。
 美空はそう思う一方で、『また連絡する』のがいつなのか、気にせずにはいられない自分にも困惑していた。