大嫌いなパイロットとのお見合いはお断りしたはずですが

 タクシーに並んで乗りこむと、美空はあらためて朋也に礼を言った。

「どれもすごく美味しかったです……! 割烹ってもっと敷居の高いイメージでしたけど、思ったより気を楽にできました」
「木崎さんは『美味しい』しか言ってなかったよね」
「ほかに言葉が思いつかなくって。でもほんとうに、久しぶりにお料理を味わって食べました」

 美空は膝に乗せた仕事用の大きなショルダーバッグから財布を取り出そうとしたが、その手をひと回り大きな手が被せるようにして止めた。

「野暮なことはしないって、さっきも言ったよね。これは、この前のお礼だから」

 操縦桿を握る手の頼もしいぬくもりにうろたえ、美空は手を引き抜きかける。
 ところが、かえって力をこめられてしまった。いつも涼しい顔で物事をこなす朋也なのに、この手は思いがけず熱かった。

「あのっ、手をどけてください」
「財布を触らないって約束するなら、いいよ」
「それはそれ、これはこれです。学生たちの前で庇ってくださったのと、お守りを拾ったのとじゃ、釣り合いが取れないじゃないですか。わたしのほうが助けていただきました」
「木崎さんは頑張り屋だけど、やっぱり(かたく)なだな。今日は、俺も久々にまともな食事ができたんだ。このままいい気分で帰らせて」

 頑なになるのはあなたの前だからだ、と言いそうになるのをこらえる。美空はややあってから渋々うなずいた。
 朋也の手がすっと離れ、こっそり胸を撫でおろす。
 心の内をかき回されるような気分には、陥りたくなかった。
 しかし一方で、食事のあいだ美空もまた楽しい気分でいられたのも事実だった。

「朝の展望デッキがいちばん好きなんです。機体に朝日が差しこんで、次々に駐機スポットから出ていく時間。わたしも頑張るぞ、と元気をもらえるんです」

 以前の質問への答えだと、朋也も気づいたようだ。
 美空は朋也がホーム画面を見たのを確認して、スマホを仕舞う。

「でも夜勤明けはだいたい体が鉛になっているので、羽田に寄る機会はあまりないですけど」
「だったらちょうどいいな」
「え、なにが……」