大嫌いなパイロットとのお見合いはお断りしたはずですが

 嫌な思考に陥っても、これは美空の問題だ。
 せっかくの美味しい食事の空気を壊したくないという思いで、美空は先をうながした。

「それで、弟さんは?」
「ああ……その後、手術が成功して今ではほぼ健康体だよ。俺はまだ遠距離を輸送できる機種の免許も取得できていないのに、あいつはとっとと親とオーロラを見にいっていた」

 ほら、と朋也はスマホを取り出して一枚の写真を表示させた。
 星空にエメラルド色のカーテンがたなびいている。神秘的な光景に、美空は息も忘れて見惚れた。

「お元気になられてよかったですね、弟さん」
「うん。まあ弟のことはさておき……今となっては当初の目的はなくなったようなものだけど、それでも俺は今もおなじことを考えているんだ」
「おなじこと?」
「その便に持病持ちの客がいるかはわからない。だけど常にいるものとして、俺はその客に忘れられない景色を見せてあげたい、ってこと。だから機体の揺れは最小限に抑えたい、安全運航は当然で目的地まで快適に過ごしてほしい。なんなら、気圧の変化すら感じさせたくない」
「……」
「けど、パイロットにできることはせいぜい操縦桿を握ることくらいだ。積乱雲を避けられるのも、無事の着陸も、木崎さんたちがいなければ叶わない。だから俺は木崎さんには頭が上がらないよ」

 そのとたん、自分でも説明のつかないため息が、美空の口をついた。
 朋也はこう言いたかったのだ。
 ディスパッチャーの仕事をパイロットと比べる必要はない、と。
 両者は比べるものではなく、おなじ目的を遂行するために役割を分担しているだけだ、と。
 美空にそう伝えるために、朋也は自身の話を持ち出したのだ。
 


 店の前には、すでにタクシーが手配されていた。お腹が美味しいもので満たされると、心まで満たされる。
 背中に軽く添えられた朋也の手も、ふしぎと嫌だとは思わなかった。
 お酒も美味しかったから、酔ったせいだろう。心がふわふわしているのは、それだけが理由ではないとはいえ。