大嫌いなパイロットとのお見合いはお断りしたはずですが

 本社ビルの最寄駅から都内方面へ数駅移動し、地図アプリを頼りに下町風情の残る界隈を歩く。
 黄色に染まったイチョウの樹々の並ぶ、どこか郷愁を呼び起こすような道を行くと、和風のしつらえが粋な一軒家にたどり着いた。
 門には華美ではないのれんがかかっており、玄関前の敷石は磨きあげられてつやつやと光っている。美空は怖気づいた。

(ほんとうにここで合ってるの? なんで、こんなことに……)

 さかのぼれば三日前、美空が「お礼を言いたい」と伝えるやいなや、朋也にさっそく会う日取りを決められたのだった。
 十五分ほどあれば事足りる。だから朋也の空き時間さえわかれば、美空は彼のいる場所まで出向くつもりだった。
 しかし朋也にはシフトを確認された上、予想外の返事が来たのだ。

【ここで夜七時に集合ね】

 添付された住所は、意外にも羽田でも本社の近くでもなかった。
 だがとにかくこの場所に行って、直接礼を言うだけだ。
 それさえできれば、二度と朋也に関わらなくてもいい。そう思っていたのに。
 玄関の引き戸は半分開いている。美空がそれをくぐるべきか迷っていると、背後から肩を叩かれた。
 薄手のチェスターコートを着た、朋也だった。

「なにためらってるの。入って」
「えっ、あの、え」

 驚く美空を残して朋也がさっさと玄関をくぐる。すると辛子色の着物に割烹着を着た女性が「いらっしゃいませ、沖形様」と手をついてふたりを出迎えた。

「ここは……」

 戸惑いつつ靴を脱ぎ、板張りの廊下を歩く。女将なのだろう、さきほどの女性が障子を開けると、そこは寿司屋によく見られる白木のカウンター席が並んでいた。
 カウンターから大将に気さくな笑みを向けられる。
 外観からは想像できないモダンな内装だ。
 靴を脱いでカウンターで食事を味わうスタイルも新鮮で、朋也の言うとおり構えすぎなくてもよい雰囲気だ。
 上着を預け、美空は勧められるがままに奥の席に腰を下ろす。
 朋也がごく自然に隣に座った。コートを脱いだ朋也は肩肘の張らないカーディガンを羽織っていて、美空はホッとした。