大嫌いなパイロットとのお見合いはお断りしたはずですが

 朋也は制服をきっちりと着こなし、エアプラス社の社章が刺繍された制帽を被っていた。
 その立ち姿には二十代なりの爽やかさと、経験を積んだ自信に裏打ちされた貫禄がにじんでいる。学生のみならず、美空も圧倒された。
 沖形は学生や美空のそんな視線すら慣れた様子で続ける。

「そして一度飛べば、俺たちが頼りにできるのも飛行監視をしてくれる彼女たちだけだ。不測の事態があったとき、彼女たちが安全に着陸させる手配をしてくれるからこそ、俺たちは空の上で孤独にならずにすむ。だから俺たちは、いつもディスパッチャーには最大限の敬意を抱いている。もちろん、その支援をする彼女にもね」

 ふわりと、心が軽くなった気がした。
 学生が零したように、美空の仕事はイレギュラーな事態がない限り、モニター上の数値を検討するのが主な業務だ。
 パイロットの考えを知る機会はほとんどない。
 美空は初めて、パイロットが――朋也が、美空たちの仕事をそのように考えてくれているのだと知ったのだった。
 その発言は同時に、学生に踏みにじられたディスパッチャーとしての誇りを、取り戻してくれるものでもあった。
 美空だけでなく、オペセンで勤務するすべての社員が報われた気分になるはずのもの。
 朋也の発言を噛みしめる。
 じわじわと、胸の奥があたたかくなっていく。
 メッシュの学生は憧れの存在であるパイロット直々にいさめられたからか、顔を真っ赤にして謝罪した。
 その謝罪を美空に向けるよう指導することも、朋也は忘れなかった。

「今日がきっかけで、君たちのこの業界への理解が深まることを願うよ。……それから」

 と、朋也が不意にそれまでとは違う、思わせぶりな視線を美空に向けた。

「たとえ君がうちのパイロットになったとしても、君が彼女に相手してもらえることはないよ。彼女には俺という先約があるから」
「は……!?」

 だしぬけに見学者からの注目を浴び、美空はたじろいだ。学生らが騒ぎだす。

(このひとは、なにを言ってるの……!?)

 悲鳴が出そうになり、かろうじてのみこむ。
 美空がわれに返ったときには、朋也はすでに悠々とした足取りでその場を去っていた。