大嫌いなパイロットとのお見合いはお断りしたはずですが

「縁談はお断りしたのに、今も父と交流してらっしゃるんですか?」
「違うよ。木崎さんこそ覚えてない? 見合いの席で、お義父さんが『娘は飛行機が好きで展望デッキに通いつめている』とおっしゃっていたよ」

 記憶をいくら呼び起こしても、父がそんな話をしていた覚えがない。
 そもそも、見合い相手が朋也だと知った動揺で、なにを話したのかほとんど覚えていないだけなのだが。
 それにしても、娘の美空でも記憶にない父の話を、おなじく結婚に乗り気ではなかった朋也が覚えていたことに驚く。
 さらにいえば少しばかり気まずい。秘密にするほどの内容でもないが、ここに来づらくなってしまった。

「……父は、あなたの義父ではありません」

 つい文句が口に出てしまうと、「気に障ったならごめん」と返ってきた。
 あっさり謝られてしまうと、それはそれで美空自身の大人げない振る舞いが際立った気がして、居心地が悪くなった。

「それで、わたしになにか?」
「うん。会って聞くほうが早いと思って。あの写真、どうだった?」
「どうって……それを聞くためだけに、わざわざここに来たんですか?」
「返事を気にするあまり、寝不足になるよりはいいと思って」
「ただの……写真じゃないですか」

 われながらぎょっとするほど可愛くない返事で、美空は自分に嫌気がさした。
 朋也と話していると、自分の嫌な部分ばかりさらけ出されるような気がする。
 瀧上や、ほかのひとの前ではにこやかに話せるのに、朋也とはそれができない。
 心のいちばんやわらかい場所を、いちいちつつかれている気分だ。それが不快でたまらない。

「ただの写真だから、返事のしようもありませんでした。以上です」
「じゃあ、木崎さんはここからの景色だったら、どの時間帯のものがいちばん好き?」

 まただ。美空の返答などおかまいなしで質問が飛んでくる。
 調子が狂わされて、顔をしかめずにはいられない。美空が言葉を探しあぐねるうちに、朋也が近づいてきた。
 美空は反射的に、近づかれた分だけ逃げてしまう。
 頭の中に朋也の姿を見たら逃げる、とインプットされているらしい。
 しかし朋也はなおも近づいてくる。