大嫌いなパイロットとのお見合いはお断りしたはずですが

 初めて実機を操縦する訓練では、たいていのパイロットがシミュレーションとの違いを思い知らされると聞く。
 ましてイレギュラーな気象条件下での操縦は、極度の緊張状態に陥ってもおかしくない。
 当然隣には教官がいるが、冷静かつ迅速な判断と技術力がないとできない芸当だろう。

「優秀だと聞いたことはありましたけど、彼って有名人なんですね……」
「知り合いじゃないのか? 親しげな雰囲気だったけど」
「親しくなんて! 成り行きでちらっと話しただけですよ。パイロットなんて、視界に入れたくないくらいですから」

 口をへの字にすると、瀧上が苦笑した。

「この仕事をしていて、パイロットを毛嫌いするとは珍しいな」
「あっ、皆さんの仕事ぶりは尊敬してますよ。わたしのこれは、アレルギー反応みたいなものです」
「はは。僕の知り合いに、猫の写真を見るのは好きでも触ると発疹が出る男がいるんだが、木崎はパイロットに近づくと症状が出るわけか」
「そんなところですね……」
「なら、もし今後彼が木崎に近づいたら、追い払ってやるか」

 冗談にしては真顔だったので驚いたが、美空も笑って雑談を終える。かすかに乱されていた心が、やっと落ち着きを取り戻した。
 われながら、アレルギーとは言い得て妙かもしれない。
 その姿が視界にさえ入らなければ。
 言葉さえ交わさなければ。
 美空も朋也をただの同僚として、心穏やかに見られるに違いないから。


 
「――お義父さんの言うとおりだ。立ち寄って正解だった」

 展望デッキからぼんやりと機体を眺めていた美空は、声を張っているわけでもないのによく通る低い声にふり返った。朋也だった。
 シャツとスラックスはパイロットのものながら、ネクタイはせず私物だろうラフなキャメル色のジャケットを羽織っている。
 仕事上がりだろうか。
 風で目にかかった髪をかきあげる仕草に男の色香がちらりとうかがえ、美空はとっさに目を逸らした。