大嫌いなパイロットとのお見合いはお断りしたはずですが

 といっても慌てる必要はない。通常、各便の出発前に作成するフライトプラン上で、すでに万が一の際のダイバート先も指定しているからだ。
 候補となる空港での整備体制や混雑状況、現地の気象情報などから、受け入れ可能な空港をピックアップする。燃料の残量も考慮しなければならない。
 AP102便のダイバート先には、台湾の桃園国際空港が指定されていた。
 現地の天候や滑走路の状況など、予定どおり桃園にダイバートさせても問題ないことを確認し、各所への連絡を行う。
 その後無事に着陸したのを確認すれば、ようやくほっと息をつくことができた。

「ダイバートは何度経験しても焦ります」
「うん、顔に出てた。顔には出てもいいが、声には出さないようにしないとな。機長との通信で、こっちがおろおろするわけにはいかないから」
「ですよね……! 次は落ち着いて対処します」

 美空は思わず手で顔を覆う。

「でもあらためて考えると、パイロットのメンタルは段違いですよね。何千フィートもの上空で機材トラブルが発生しても、まったく動じないんですから」
「そのために訓練があるから。というのは当然だが、実際はどうだろう。動揺しないわけでは……ああ、でも彼に関してはそのとおりだろうな」
「彼?」
「この前、休憩室を通りがかったときに見たよ。沖形だっけ。訓練生時代、実機訓練初日の訓練中にハリケーンが接近するという不運に見舞われながら、勤続三十年のベテラン機長も仰天するほどの胆力を見せて難なく着陸した強者だと聞いたことがある。ちょっとした伝説ものだよ」