大嫌いなパイロットとのお見合いはお断りしたはずですが

 心臓がざわついた。
 なぜこんな目で見られるのか、わからない。
 わからないから落ち着かない。

「俺はこれから伊丹便で、そのまま羽田に戻るから、お礼に夕飯でも」
「わたしは夜勤です」
「じゃあ、明日……って明日は俺が空いてないな。明後日は?」
「お気遣いなく。それより、どうぞご安全に」

 ご安全に、はエアプラス社内では「いってらっしゃい」に代わるお決まりの挨拶だ。
 言外に早く行ってほしいという気持ちをこめると、朋也がお守りをフライトバッグに入れた。

「参ったな。ありがとう、じゃあまたの機会に」

 また、なんてものはない。と言おうとして美空は思いとどまった。フライト前のパイロットを刺激するのは、褒められた行動ではない。朋也自身に対してどれほど思うところがあっても。
 美空は「ご安全に」を繰り返した。じゃあまた、の言葉に含まれた朋也の行動力がどれほどのものか、このときは想像もつかないまま。
 


 ないと思っていた「また」の機会が訪れた上、その早さにも美空は唖然とした。

「どうしてこちらに……」
「パイロットも本社に来る機会くらい、ふつうにあるよ。ついさっきまで会議だった」

 オペセンの社員が日常的に使用する休憩室で、シャツに制服のスラックスを履いた朋也が長椅子に腰かけていた。三本線の入ったジャケットは彼の脇に無造作に置かれている。
 お守りを渡してから、まだ一週間も経っていなかった。
 パイロットが本社にいること自体は別段ふしぎではないが、オペセンの休憩室で見かける機会は稀だ。現に、休憩室を見回せばカーディガンにパンツ姿の美空とさほど変わらないオフィスカジュアルの社員ばかりだった。
 美空は絶句したまま朋也の前を通り過ぎ、自販機でゆずレモンソーダを買う。