大嫌いなパイロットとのお見合いはお断りしたはずですが

 荒々しく息巻きながらワンピースをむしり取り、美空は浴室に入る。
 朋也はなまじモテるがゆえに、自分に興味のない女性が存在するとは思いもよらないのかもしれない。
 そうだとしたら、思い上がりもはなはだしい。そしてそんな相手に、一瞬ドキッとしてしまった事実が腹立たしい。
 美空はシャワー栓を捻り、勢いよくお湯を出す。乱暴にメイクを落とすと、目元がひりついた。
 これでも一応、見合いの席ならと念入りにメイクをした自分がバカバカしい。

「話をするのに展望デッキを選んだところだけは、よかったのに……」

 おなじ風景を愛する同志として、朋也を一瞬見直したのだ。

(なのに、仕返しされるなんて)

 思い出しても羞恥で顔が熱くなる。
 硬直した美空を、朋也はあのあと喉の奥で笑ったのだ。意趣返しが上手くいったとほくそ笑んだのに違いなかった。
 美空には、恋愛という意味で誰かと付き合った経験がない。
 人並みに恋愛への憧れはあっても、それを自分事から切り離したのは、母を亡くしたからだった。十四歳のときだった。
 あのころ美空は、父を立て直すのに必死だった。
 母を亡くした父は、しばらくは生きながら死んでいるのに似た状態だった。
 父の元同僚が何人も弔問に訪れ、父を励ましてくれた。それでも父はいっさいの気力を失ったままだった。
 どうにか父が前を向くようになったのは、三回忌が過ぎたころだっただろうか。
 だから父が航空専門学校の教鞭の職を得たとき、美空はようやく肩の荷が下りた気分になったものだった。

(パパは……沖形さんに会えて子どもみたいに喜んでたな)

 今日はさぞ元パイロットの血が疼いただろう。
 父は明日も授業があるからと三時過ぎには飛行機で帰ったが、今ごろ母の遺影を前に上機嫌で晩酌していそうだ。
 縁談を断れば父は気落ちするだろう。