大嫌いなパイロットとのお見合いはお断りしたはずですが

 わけがわからない。
 ひとをおちょくるのも大概にしてほしい。

「なんなの、あれ……!!」

 職場からも羽田空港からも、ドアツードアでおよそ四十分。
 築十三年、外観の多少の古さは否めないが、自分だけの城である1Kの自宅マンションに帰り着くなり、美空は通勤用のショルダーバッグをソファに放り投げて憤然と叫んだ。
 美空の住む街はスーパーやショッピングモールなどの商業施設が充実する、都心のベッドダウンだ。都心へのアクセスもいい。
 治安も比較的よく、林立するファミリー層向けのマンションの合間には、小さいながら公園もある。
 駅から徒歩十五分かかるものの、都心ほどの喧噪もなく、利便性と住みやすさをほどよく兼ね備えているところが気に入っている。
 だがその住み心地のよさも、今の美空を慰めるものにはならない。
 これが、叫び出さずにいられようか。
 頭の中では、展望デッキでの一幕がぐるぐると回っている。とりわけ腹立たしいのは、朋也の最後のひと言。
『終わる』どころか、なにひとつ始まってもいない。
 しかも、当の本人すら気に食わなそうな口ぶりではなかったか。
 朋也も親の顔を立てるために見合いに出席したと思っていたが、実は破談にならないよう親に強く言い含められていたのだろうか。それとも……。

「この前の仕返しなの……?」

 美空が、公衆の面前で朋也をなじったから。朋也は虎視眈々と、仕返しの機会をうかがっていたのではないだろうか。
 近づく女性――この場合は美空だ――を撥ねつける代わりにいたぶり、自分の正しさを証明しようとでもいうのだろうか。
 ありえる。
 面白くなさそうな顔までして美空にああ言う理由が、ほかに思いつかない。

「わたしがあんな言葉で胸をときめかせるとでも思いました? わたしはあなたに興味はないと最初にお伝えしたはずですが!?」