大嫌いなパイロットとのお見合いはお断りしたはずですが

 朋也のそんな副音声が聞こえた気がして、美空は肩を震わせた。

「寒いですか? ああ、コーヒーも冷めましたね。空調の温度を変えてもらうよう言いましょう」
「いえ大丈夫です、お気遣いなく……っ」

 ラウンジのスタッフを呼び止めようとした朋也を、美空は慌てて止めた。震えたのを見られていたなんて、ますます決まりが悪い。
 しかしそれを機に「あとは若い者同士で話を」というお約束らしい流れになり、美空は朋也とともに場所を移すことになった。

「こういうとき、定番なら庭の散策だろうけど。このホテル、庭がないよね」
「……そうですね」

 親たちの手前、愛想をよくしていた反動か思ったよりもそっけない声が出る。朋也がくっと喉で笑った。

「そんな、毛を逆立てた猫みたいな態度をしなくても。行きたい場所はある?」
「いえ、このまま解散でも――」
「じゃ、羽田に行こう。歩けるよね」
「えっ。歩けますけど……えっ」

 ホテルを出た朋也は、美空の返事も待たず空港へ足を向けた。
 ホテルから空港までは徒歩圏内だ。細いヒールのパンプスには慣れないが、歩けないほどではない。
 美空が小走りで追いつくと、朋也は歩調をゆるめてくれた。意外だった。

(だけど、いったいどういうつもりなの?)

 空港のターミナルに入っても、朋也は迷うことなく足を進める。どこへ行くのだろう。

「あの。ラウンジで紹介したとおり、わたしはオペセン所属のまだひよっこです。将来ディスパッチャーになるために勉強中で……父は乗り気でしたけど、わたし自身は結婚どころじゃないんです。あなたもそうでしょう?」

 ところが美空の予想は外れた。

「いや、気が変わったんだ」