大嫌いなパイロットとのお見合いはお断りしたはずですが

 名取はうなずくと、そのまま東京コントロールへルート変更を連絡する。管制へはすでに話がいっていたらしく、あっさりと中部へ向かう分岐地点をガイドされた。
 名取とふたり、コクピットであらためてこの先の変更を確認し合う。
 全権は名取が握っているが、お互いの認識に齟齬がないようにすり合わせるのは、基本中の基本だ。
 朋也は管制の指示に従って機首を中部方面に向ける。フライトプランのとおりに機体の高度を上げ、燃料消費量を節約することも忘れない。

「――機長の名取よりご案内いたします。本日、羽田空港上空での悪天候にともない、当機はこれより行き先を変更して中部国際空港に着陸いたします。皆様にはお急ぎのところ大変申し訳ございませんが――」

 朋也が操縦を行う横で、名取が乗客向けにアナウンスを行う。おそらく客席では突然の行き先変更にどよめきが起きているはずだ。
 朋也も、やっと美空に会えると思ったのにとんだ迂回を強いられて心穏やかではない。
 と、必要事項はアナウンスし終えたはずの名取がふたたびマイクを握った。

「本日はバレンタインデーですね。皆様の中にも、今日会いたかったひとを思い浮かべているひとがいるのではないでしょうか。本日、皆様をお連れしております副操縦士も、羽田で待つ恋人にプロポーズするつもりだったようです」
「なっ……話を盛りすぎですよ!」

 もちろんプロポーズするなら美空しか考えられないが、今日の予定にはない。朋也は小声で名取に抗議したが、名取は横目で朋也に笑うと機内放送を続けた。

「つくづくタイミングに恵まれない副操縦士ですが……彼自身も恋人の元に帰るため死ぬ気で安全運航いたしますので、皆様もその点はご安心ください」

 客席やクルーの反応を想像すると頭が痛い。
 しかしマイクを戻した機長は満足そうで、朋也は遅まきながら察した。機長はあえてクルーの内情をさらし、客席の緊張を解こうとしたのではないか。
 おかげで、なじるどころか苦笑が漏れた。

「俺をネタにしましたね? いくら機内の空気を軽くするためだからって……けど、いい具合にアシストしてもらいました」