大嫌いなパイロットとのお見合いはお断りしたはずですが

「朋也のおかげだよ……。わたし、無意識に父ときちんと話をするのを避けてたんだと思うの。父と会えばまたパイロットを褒めるに違いない、苦しくなるに違いないって思ううちに、向き合うのが怖くなってた。でも、今日ちゃんと話してみたら……拍子抜けしちゃった」

 もっと早く父と向き合っていたら、もやもやした思いを長く抱えずにすんだのかもしれない。
 だが過ぎた時間を思うより、これから父ともっと話していけばいいのだ。

「お父さん、電話でも娘自慢が止まらなかったよ。昨日の香港便で、機長と俺がオペセンのディスパッチャー――瀧上さんにフライトプランの変更を提案されてからの一件を伝えたら、それはもう大興奮で。いい意味で、熱いひとなんだなって」
「そっか……今日は父を呼んでくれてありがと」

 耳元にキスが降ってくる。
 覆い被さってくる朋也にうながされるようにして、美空はソファに倒れこんだ。朋也が真上から見おろしてくる。

「俺としては少し複雑だったけどね。お父さんが美空の自慢話をしたきっかけは、フライトプランの変更提案の話題なんだ。それだけあの提案が的確かつ迅速に出たものだったから文句はないけど……結果的に、瀧上さんの力を借りた形になったのは心残り」

 美空はこっそり息をのんだ。

 鼓動がにわかに走りだす。
 とく、とく、と大きな音が耳の内側で響く。
 燃料の残量と、そこから選択可能なダイバート先や高度を弾き出し、フライトプランの変更を判断したのは――。

「実はね、あれは……」
「ん?」
「……なんでもない」

 フライトプランそのものは、最終的にはディスパッチャーである瀧上の名前で出している。美空が名乗るには早い。
 いつか美空がその責任を負ってフライトプランを作成できるようになったら、そのときこそ自分のしてきたことを堂々と口にすればいい。