大嫌いなパイロットとのお見合いはお断りしたはずですが

 しかし父は嬉々として、美空の仕事について語り出す。自分がいかに世話になったか。支えだったか。
 心の内でわだかまっていた気持ちが、ゆるゆると解けていく。
 鼻の奥がつんとして、美空はそれをごまかすようにレモネードを口に運んだ。

「……そっか。パパも裏方の仕事のこと知ってたんだ」
「何年パイロットをやっていたと思うんだ? ああでも、美空の前で裏方の話をしたことはなかったか……。娘にいいところを見せたくて、自分の話ばかりしていたんだった」
「ええ? そんな理由?」

 まさかそんな理由で、ひたすらパイロットの話を刷りこまれてきたのか。
 唖然とする美空の前で、父がばつが悪そうにコーヒーをすする。

「だが美空も、目指した場所にたどり着いたんだな。親として、それがなにより誇らしいよ」
「まだまだ、ディスパッチャーの資格もこれからで道半ばだよ。でも、うん。なりたかったものにはなれなかったけど、やりたかったことはやれてると思う。道はひとつだけじゃなかったよ」

 父と笑い合いながら、美空はどこかで待っているはずの朋也を思った。
 今すぐ、会いたくてたまらなかった。


 
 夜、朋也とともに帰宅すると、美空は適度な高揚感と満足感に包まれながらソファに深く沈みこんだ。
 あのあと午後の便で帰る父を見送ってから、ふたりで都心へ出てプラネタリウムを観た。緊張の強いられるフライトを終えた朋也にゆっくりしてもらいたくて誘った、美空からのバレンタインデーのプレゼントだ。
 朋也は想像以上に喜んでくれた。中でも好評だったのは、ふたりで寝転んで星空を見あげられるのが売りの、カップル用シートだったが。
 惜しむらくは、いつのまにかその寝心地のよさに誘われてうとうとしていたことだが……朋也もリフレッシュしてくれたようだ。

「今日、すごくいい日だった。心の中をデトックスできた感じ……こんなにすっきりした気分で過ごせるなんて」
「さっきから、ふわふわしてる?」

 隣に座った朋也が、顔を寄せてくる。唇の表面に触れるだけのキス。
 プラネタリウムの上映中にもおなじキスをされたのを思い出し、美空は心臓を跳ねさせた。