大嫌いなパイロットとのお見合いはお断りしたはずですが

 美空は自分の胸の前に回されたたくましい腕に、手を添える。

「わたしもあのとき、AP476便を飛ばすチームの一員だった。朋也が、あの通信で気づかせてくれたの」
「大事なことだっただろ」
「……うん。前にも、学生たちの前で教えてくれたのにね。朋也にもさんざん『頑なだ』って言われたけど……気づくのが遅すぎる」 

 パイロットだけが飛行機を飛ばすのではない。
 父親や朋也がたまたまパイロットを選んだだけで、美空たち運行管理者とその支援者も、飛行機を飛ばしていた。
 もちろん美空たちだけでもない。空の上で、地上で、表から見えない場所で、力を尽くしているひとがいる。誰が欠けても、飛行機は飛べない。

「美空は頑なというか、気持ちの切り替えが下手くそなんだよ。けど安心して。美空が煮詰まったら、俺が切り替えてあげるから」

 優しい声が降ってきたと思ったら、頭にこつんと朋也の頭が乗った。
 まるで頭をやわらかくしてあげるとでもいうかのように、顎先でぐりぐりと頭を押される。
 痛い、と抗議ともじゃれ合いともつかない調子で訴える合間に、美空は「ありがとう」を滑りこませる。と、朋也がふいに尋ねた。

「そういえば訊きたかったんだ。美空はどうして運航支援者に?」
「それはね……教えてくれたひとがいたの。『地上のパイロットと呼ばれるひとがいる』って」

 パイロットの採用試験に落ち、自棄になっていたときだ。
 ちょうどこの場所だった。
 美空は自然と、視線をフェンスの向こうに飛ばす。
 ぐちゃぐちゃになった心を抱えて、美空は屋上デッキから夜の滑走路を眺めていた。実家に帰るフライトまで、二時間ほど余裕があった。
 おなじように飛行機を眺めていた中学生くらいの少年が、教えてくれたのだ。

『パイロットって、空と地上にふたりいるんだって。そのふたりが揃わないと、飛行機は飛ばないらしいよ』