「いえ。中部にダイバートさせませんか? あちらの天候は晴れ、今夜は滑走路のメンテナンスもなく二十四時を超えても着陸可能です。476便の残燃料も計算しました。高度を通常より高く保って消費量を抑えれば、安全に着陸できます」
発達した積乱雲を避けながら一瞬の隙を突く。それ自体は、朋也ならできるだろう。
だがそれは、ゴーアラウンドを繰り返す可能性も孕んでいる。
昼間ならともかく、視界の悪い夜間にあえてさせるのはリスクが高かった。朋也の能力を信じる気持ちとは別に、運航支援者として、より安全性の高いほうを選択しなければ。
美空は計算結果を瀧上に示した。
「わかった。そうしよう」
ややあってから、瀧上の同意の言葉が響いた。
美空は、無意識に詰めていた息をどっと吐いた。緊張で心臓がまだ乱れている。
しかし止まっていられない。
美空は中部国際空港の受け入れ体制に問題ないことを確認したのち、瀧上に頼んでAP476に通信を繋いでもらった。
瀧上が機長に、ダイバート先を成田から中部国際空港へ変更する申し入れをする。機長が副操縦士――朋也と意見を交わした気配のあと、通信が戻る。
「AP476、ダイバート先変更を了解しました」
「では新しいフライトプランを送ります。承認をお願いします」
変更したプランはすでに作成できている。あとは責任者である瀧上の承認と機長の承認を経て、中部国際空港内のディスパッチャーにも情報を共有する流れとなる。
このフライトプランなしで、機長は勝手に航路を変更することはできない。だからこそ今回の異常事態では迅速な対応が求められたのだった。
美空はほっとした。これで476便は羽田で往生して燃料を無駄にすることなく、安全に着陸できる。機長が美空たちのプランの妥当性を認め、即座に決断してくれたおかげだった。
と、ふいに苦笑気味の瀧上から通信を譲られた。
すでに必要事項のすり合わせは終えたはずなのに、とけげんに思いつつ通信を変わった美空は、耳に流れこんできた声に息をのんだ。
「今日も、俺たちを安全に飛ばしてくれてありがとう」
朋也だった。



