大嫌いなパイロットとのお見合いはお断りしたはずですが

「燃料の残量……ですよね」

 ダイバートになった場合の代替空港は、あらかじめフライトプラン上で各便ごとに指定している。そのため、通常であればそれに従い代替空港へのダイバートを行えばいい。
 だが、AP476便だけは少々事情が異なった。
 現地を出発直後に急病人が発生したため、ATB(エアターンバック)を経験している。一度離陸した機体が、出発空港に戻るイレギュラーな事態だ。
 機材トラブルではなかったのはさいわいだった。だが、現地空港サイドが燃料の補給よりも遅延を取り戻すことを優先したため、燃料の残量も余裕があるわけではない。

「AP476便が到着する前に、積乱雲が解消されればいいが……」

「こちらで準備できることはしておきましょう。夜間ですし、滑走路の運用時間も考えると代替空港の再検討もしておきます」

 ふと浮かびかけた悪い予感を即座に頭から追い出す。
 AP476便のパイロットは朋也だ。彼ならぜったいになんとかする。
 だから美空も、なんとしてでも彼らを無事に地上に降ろすのだ。



 しかし美空たちの願いと反対に、二十三時を超えると事態はさらに悪化した。
 積乱雲はみるみる発達し、羽田空港は上空待機を指示された機体で夜間としては異例の混雑を見せ始める。成田空港へのダイバートを指示される便もあった。
 しかし成田空港付近は、さきほどから雨が降り続いている。ただでさえ、成田空港はその立地条件から濃霧が発生しやすい空港だ。ダイバートしても、視程不良で着陸できなくなる可能性も浮上した。
 夜間のオペセンは、常にない緊張感に包まれた。室内だというのに、吐く息が白く凍りそうだった。

「しかたない、積乱雲の隙を突いて羽田に下ろすか」

 美空はモニターを見ながら少し考える。首を横に振った。