大嫌いなパイロットとのお見合いはお断りしたはずですが

(大事なこと?)

 美空が朋也を見あげたとき、うしろの席で幼児の泣き声が弾けた。母親とおぼしき女性が、周りに恐縮しながら必死に子どもをなだめようとしている。
 朋也が幼児のほうをふり向き、顔芸をしてみせる。横で見ていた美空のほうが噴き出し、けっきょくその続きは聞きそびれてしまった。



 東京に戻ってから、朋也はますます忙しくなった。
 前に言っていたとおり、乗務のあいだを縫って機長訓練を受け始めたからだ。
 機長訓練といっても、訓練をこなせばすぐに機長になれるわけではない。機長になるための必須資格をまず取得した上で、さらに機長昇格のための訓練と社内審査も待っている。資格取得に必要な飛行時間も定められており、訓練が始まったからといって一朝一夕に昇格できるものではない。
 自宅でも熱心に勉強する朋也を見て、美空は彼がただ才能のあるパイロットというだけではないのだと知った。
 その姿を見て苦しくなるなどということは、もうない。
 早番の日は、朋也を起こさないよう物音を立てずに身支度をするのが上手になった。
 一方の美空も、ここのところ忙しくなっていた。
 というのも、美空もいよいよディスパッチャーになるための試験が近くなったからだ。
 ディスパッチャーもパイロットと同様、その職につくには国家資格と社内審査の両方をクリアする必要がある。国家資格は、運航支援者として実務経験を二年積めば受験資格が得られるもので、美空も入社三年目に受験し合格している。
 だからあとは社内審査にさえ合格すれば、晴れて運航支援者からディスパッチャーに昇格できる。
 もっとも、その社内審査を受ける前に、まず半年間かけて五度行われる実技試験に合格しなければならない。その実技試験の時期が迫っているのだ。

 そんなこんなで、朋也を父に引き合わせて以来デートらしいデートもできないままひと月が経つ。
 朋也の腕の中で眠るときだけが唯一の休息と化していたが、バレンタインデーの今日はふたりとも仕事だ。