大嫌いなパイロットとのお見合いはお断りしたはずですが

「――機長訓練? ってもしかして」

 手の中のココアの、白い湯気が揺れた。食後に淹れたそれをソファで飲みながら、美空は隣の朋也を見やる。

「うん。前から言われてはいたんだけどね。いよいよ、ってところかな。先週……ちょうど美空が越してきた日だっけ、本社に呼び出されたのは、その件だったんだ」
「すごい! もう……!? この前、787の免許を取ったところじゃなかった?」

 エアプラス社の自社養成パイロットは、入社後一、二年はまず地上勤務を経験する。
 その後ようやくパイロットとしての訓練が始まり、最初の型式限定免許を取得し商業機を操縦するまでに三、四年年ほどかかる。
 そこからさらに機長になるまでには、十年がかかるとも言われる。

「まだ訓練が始まるだけだよ」

 そうは言っても、異例といってもいい早さだ。
 朋也に関しては以前ちらっと機長訓練をするらしいと耳にした覚えもあるが、ほんとうにまだ二十代のうちから機長訓練が始まるとは。
 美空はほうとため息をつき、カップをテーブルに置く。かすかな焦りが胸の奥に湧きあがったのには知らないふりをした。

「訓練だけでもじゅうぶんすごいことだよ。朋也の努力が認められたんだもの、おめでとう。弟さんも喜ぶね」
「うん。ありがとう。機長になれば、弟もようやくほっとするだろうな。けどひとつ残念なことがあって」
「うん?」
「……美空との時間が取りにくくなる」
「なに言ってるの。そんなの、大したことじゃないじゃない。せっかくのチャンスだから、ちゃんとものにして。わたしも頑張らなくっちゃ」

 とたん、肩にさらりと髪がかかったと思ったら、朋也が頭を乗せてきた。肩先にぐりぐりと頭を押しつけられる。

「平然とされると、なんか悔しいな」
「えっ……足を引っ張るのは違うでしょ?」
「そうだけど。少しは寂しがってよ」
「朋也って……実は甘えたがりなの?」