大嫌いなパイロットとのお見合いはお断りしたはずですが

 美空が持ってきた皿も隣に並べられていく。長身の朋也の手にかかれば、あっというまだ。

「ようこそ、我が家へ。これくらい俺がするから、待っていてくれればよかったのに」
「次からはそうする。ありがと。……っ、朋也? そろそろ、動きたいんだけど……」

 朋也が、作業台と自身のあいだに美空を閉じこめるように両手をついているのだ。おかげで身動きが取れず、鼓動だけがうるさく鳴っていく。

「さっきの『おかえり』。いい響きだったね」
「え? うん、あの、それよりそこどいて……」
「もう一回、聞かせてよ」

 これは「おかえり」を言うまで離さないという意味らしい。いつのまにか、また朋也のペースにのまれてしまっている。
 しかも心なしか、さっきより密着している。
 朋也の体温が、裾の伸びきった部屋着越しに伝わってくる。だしぬけに、美空ははっとした。

(やだ、よれよれの服を着てるとこ見られた……っ)

「ちょっ、早く離れて……!」
「えっ、怒った?」

 切羽詰まった声にぎょっとした朋也が、体を離す。美空は羞恥で頬を真っ赤にしながら、部屋着の前を隠すようにかき合わせた。

「なんで見ちゃったの? 引越し初日くらい、かわいい格好で迎えたかったのに……!」
「…………美空、今自分がどれだけかわいい発言をしたか、わかってる? こっち向いて。ただいま」

 肩に手をかけられ、美空はしかたなくダサい格好のまま朋也に向き直る。

「う……おかえりなさい」
「ただいま」
「おかえりなさい」
「うん、ただいま」
「もう! おかえりなさいってば」

 唇をかすめるように、朋也のキスが降りてくる。湧きあがる感情がくすぐったくて、手に負えない。
 誰かの前で、自分が真っ赤になるのも胸を騒がせるのも信じられなくて、つい尖った声になってしまう。
 だけどそんな美空の内心さえお見通しだと言わんばかりに、朋也は笑って顔を寄せてくる。

「これから毎日、こうしてただいまとおかえりを言い合おうよ。喧嘩をしても、毎日」
「喧嘩はしたくないよ」
「それは俺もそう。けど、喧嘩もせずに逃げられるよりはいいな。怒りながらでいいから、ただいまもおかえりも言ってよ」
「うん、朋也もだからね。……よろしくお願いします」
「こちらこそ」

 甘さをたっぷり含んだ微笑みは、まるで媚薬のようだ。引越し初日から朋也を前にあたふたして、この先心臓が保つだろうか。
 朋也の甘く優しいキスを受け止めながら、美空はふとこれからが空恐ろしくなった。