大嫌いなパイロットとのお見合いはお断りしたはずですが

「え……ここって、こ……ここ?」
「そう。俺たち、お互い勤務も変則的で、会える時間が限られているよね。帰る場所がおなじなら、今より長く一緒にいられる。美空も、今より通勤が楽になるよ」
「それは……ありがたいけど」

 朋也の言うとおりだ。朋也の家からなら二十分ほどで職場に着く。大幅に時間の節約ができる。
 オフの日が重ならなくても、ここに帰れば朋也に会える。
 想像するだけで、胸の辺りが甘やかな気持ちで満たされていく。恋人ともっと一緒にいられるなんて、幸せ以外の何物でもない。
 しかし一方で、自分のペースが乱されるのをよしとしなそうな朋也が、同棲を提案するのが意外で……いや、それよりも。
 美空は青ざめて跳ね起きた。

「待って、わたしこんなにお高そうなマンションの家賃なんて払えない……!」
「あのさ。会えないあいだに美空が風邪でぶっ倒れている、なんてことを俺にまた経験させる気?」

 朋也が、心底嫌そうに眉を寄せた。

「あのとき俺がどれだけ焦ったか、美空は理解してないからそんなくだらないことが言えるんだよ」
「くだらなくはないと思っ」

 収入の差は歴然としているが、美空も社会人だ。夫婦ではない以上、美空の頭の中に自分の払うべきものを恋人に支払わせるという選択肢は存在しない。
 だが語尾は、眉をひそめた朋也の言葉に被せられて言えなかった。

「連絡がつかない、ついたと思ったら突き放される。その上、あの男に美空は風邪だと聞かされたときの俺の気持ち、わかる?」
「あの男?」

 聞き返してから思い当たった。瀧上のことだろう。

「自分が美空の体調も知らずにいたことも、あいつが俺の知らない美空を把握していたことも、腹が煮えくりかえりそうだったんだよね」
「でも瀧上さんはわたしの指導者だから、ふつうに報告するよ……」

 職場に病欠の連絡を入れるのは、社会人として当然だ。これからも、それは変えられない。
 しかし朋也は顔を歪めて、起きあがった美空の髪を軽く引っ張った。

「理屈ではわかっている。けど俺は、俺だけが美空のすべてを知る男でいたいわけ」
「え……」

 にわかにある予感が膨らんで、美空は動悸がしてきた。