大嫌いなパイロットとのお見合いはお断りしたはずですが

 朋也がシドニーから戻ってきたことは、モニターを眺めていれば確認できた。
 画面いっぱいに表示されたフライトレーダーでは、羽田空港を離発着するすべての便がリアルタイムで確認できる。
 朋也が副操縦士を務めた便は、昼の内に予定どおり着陸していた。その機影はとうに画面から消えている。
 モニター右下の時刻は、夕方五時を表示していた。

「お先に失礼しますね。お疲れ様でした」

 夜勤の当番への引き継ぎを終え、隣の席に挨拶をする。オフである瀧上の代わりに入っていた別のディスパッチャーの目礼を受け、美空はオペセンをあとにした。

(シドニー便、無事に着いてよかった)

 どの便でもそうだが、無事の着陸を確認するとようやく安心できる。
 逆に、どこかで足止めされていると、早く着陸させてあげたいと祈るような気持ちになる。
 朋也は、デブリーフィングを終えて帰路に着いているだろうか。今日は、朋也の家に行く約束をしている。
 美空は早足で本社ビルを出たが、とたん吹き荒ぶ風に首をすくめた。
 場所柄、風がひときわ強いのはしかたないが、これだけはいまだに慣れない。手袋を嵌めようとして、美空は思い直した。

(そうだ、先に連絡しなくちゃ)

 歩く速度はゆるめずにスマホを取り出し、今から行くとメッセージを打つ。
 そうしないと、朋也はオペセンまで迎えに来かねないのだ。
 わざわざ迎えに来てくれるのが、嬉しくないとは言わない。
 だが、多忙な朋也が貴重な時間を必要以上に美空に割くのは申し訳ない、という気持ちのほうが大きかった。
 今日のように彼の家に行くと約束している日は、特に。
 家で待っていて、と送ったメッセージが既読になるのを確認して、電車に乗る。ところが、朋也のマンションのある駅で降りると改札の向こうには彼の姿があった。