大嫌いなパイロットとのお見合いはお断りしたはずですが

 美空は目を見開いた。タクシーの中でひとり先走ってあれこれと考えていたくせに、いざとなると頭が真っ白だ。
 心の準備ができていない。そのせいで、てんで意味不明な返事になってしまった。

「…………っ、えっと、それはわたしの一存では決められないというか」
「ぶはっ、誰が決めるの」
「や、ほら、終電の時刻とかいろいろ、考えなきゃで」
「明日のシフトは?」
「……お、遅番だった、かな」
「ならなんの問題もないね」
「で、でも着替えとか用意してないから……」

 しどろもどろで言いながら、美空はふと朋也が顔を伏せているのに気づいた。
 かすかな笑い声。忍び笑いをしているのだ。

「美空、自分で気づいてない? 前の、とりつく島もないくらいの拒絶を思えば、今のはまったく効果がないんだけど」
「う、そんなに笑わなくても……これでも初めてで……どうしていいかわからなくて、困ってるのに」

 途方に暮れて眉を下げると、顔を上げた朋也の手が伸びてくる。
 指の背で頬を撫でるのは、きっと彼の癖。
 ふわ、と体が浮いたと思うまもなく、美空はソファに座らされた。朋也が座面に片膝をつき、ソファの背に両手をつく。
 朋也に囲われたような体勢に、心臓がとくりと鳴った。

「だったらよけいに、帰せないかな」

 朋也が顔を寄せてくる。
 顎をすくわれて、あ、と思ったときにはやわらかな感触を唇に受け止めていた。重なって、離れて、また重なる。
 甘やかな吐息を漏らしたとき、朋也の舌が唇を割り入ってきた。
 チョコレートの甘味が口内に広がる。角度を変えては深くなっていくキスを、受け止めるだけでいっぱいいっぱいだった。知らず喉が反っていく。ソファの軋む音がする。ほとんど覆い被されるように求められた。