大嫌いなパイロットとのお見合いはお断りしたはずですが


「ザッハトルテ……?」

 リボンをほどき、蝶番(ちょうつがい)を外して蓋を開ける。つやつやとしたチョコレートに包まれた、丸いザッハトルテが目に飛びこんだ。当たりだ。

「木箱入りってところが、貫禄あるよね。どう? せっかくだからデザートにしない?」
「したい!」

 夜に食べれば太るかも……という心の声には少しだけ休んでいてもらおう。
 コーヒーを淹れるという朋也についてキッチンにお邪魔し、美空はザッハトルテを切り分ける。さっそくティータイムになった。
 ダイニングテーブルで向かい合い、ザッハトルテにフォークを入れる。チョコレートの濃厚な甘さが口いっぱいに広がった。あとからやってくるジャムの酸味のおかげで、くどくない。
 朋也が淹れてくれたコーヒーは香り高く酸味と苦みのバランスも絶妙で、チョコレートの余韻をほどよく引きしめてくれる。

「ご馳走様でした。美味しかった……」
「買ってきたかいがあったね。俺はまだ食い足りないけど」
「まだあったから、お代わりしま……する? わたし、切ってくる――」

 笑って立ちあがった美空は、朋也の皿を取りあげようとしてどきりとした。
 手をつかまれている。
 顔を上げれば、これまでと違う熱を宿した目とぶつかった。

「あ、あの……?」
「ごめん。ほんとうは帰したほうがいいんだろうけど、我慢できなくなった」

 手を取られたまま、朋也がテーブルを回りこんでくる。
 中途半端に腰を浮かせたまま硬直する美空の耳元で、朋也がささやいた。

「今晩、帰さなくてもいい?」