大嫌いなパイロットとのお見合いはお断りしたはずですが

 そんなささいな仕草に、いちいちドキッとしてしまう。
 まるで全身が、朋也の視線や指先を感じる器官に変化したかのようだった。
 そしてその感覚は、美空たちが乗ったタクシーが朋也の住むマンションに近づくにつれて増していった。

(こんな時間に恋人の家に行ってもいいか、なんて……なにかを期待してるみたいでは……!?)

 まだ付き合って一週間だ。ひょっとして大胆な提案をしてしまったのではないか。軽い女だと思われないだろうか。
 いや、そう思うのは美空だけで、朋也はそんなことは想像もせず純粋にお土産を渡す気でいる可能性もある。
 隣に座る朋也の表情を盗み見するが、その表情から彼の考えは読み取れない。ただ、機嫌がよいことだけが伝わってきた。
 よこしまな想像をした自分が恥ずかしくなってくる。

(お土産を受け取って、帰る。そう、それだけよね)

 鼓動を落ち着かせようとする美空の努力は、あっけなく無駄になった。左手に朋也の手が重なる。
 包むように握られた。
 こんなとき、どうすればいいかわからない。
 握り返すのがいいのか、なにか言うのがいいのか。恋愛初心者には難問で、美空は朋也と目が合った瞬間うつむく。
 タクシーを降り、洒落たエントランスをくぐると、鼓動の乱れはいや増した。
 吹き抜けのロビーを見渡すと、スーツ姿の男性が頭を下げた。これがいわゆるコンシェルジュなる人物かと頭の隅で思う。
 恐縮しながら会釈を返し、美空も朋也に続いてエレベーターに乗りこんだ。エレベーターは、目的階にのみ降りられる造りらしい。
 緊張で心臓を大きく打ち鳴らすあいだに、エレベーターは最上階近くの階で止まった。ほとんど上の空で降り、朋也についていく。
 背中越しにドアが閉まる音が耳を打って初めて、美空は朋也の部屋に着いたのだと気づいた。