大嫌いなパイロットとのお見合いはお断りしたはずですが

 朋也はウィーンでステイ後、日本に戻り、続けて国内線にも乗務していた。
 父親と訪れたことのある空港ターミナル内のレストランの窓際の席で、美空は滑走路を眺める。
 真冬の夜空は、窓越しにでも張りつめたような鋭利な空気を感じる。
 今夜は晴れ。
 低い空には、機体自身の灯火の点滅とは違う星のまたたきも、かすかながら見て取れる。室内にいるのに、滑走路上空の空気の匂いが鼻をついた気がした。
 朋也の操縦する広島からのエアプラス社便は、小一時間ほど前に滑走路に滑りこんでいる。

『明日の夜、羽田に戻るけど来れる? 美空に会いたい』

 思い返して、また胸がとくんと鳴る。
 昨夜だった。フランクフルト便が現地に着いてほどなく、朋也からそう電話がかかってきた。ミーティングを終えてホテルにチェックインするなり、かけてくれたらしかった。
 行きますと即答したのは、付き合いたて特有の甘ったるいテンションだからというより、まだこの展開を信じきれずにいたからだ。
 朋也はターミナル内のレストランを指定した。

『中で待ってて。決して寒い到着ロビーで待たないこと』

 とわざわざ言い添えて。朋也は、美空の体が弱いとでも思っている節がある。体調はすっかり回復していたが、美空は素直にうなずいたのだった。

 乗客はすでに全員降りただろう。朋也は今ごろ、デブリーフィングの最中に違いない。
 美空は久しぶりに袖を通したタートルニットのワンピースの裾を引っ張った。
 体のラインをまろやかに出すニットは、必要以上に女っぽさを強調しているようで落ち着かない。
 それでつい、足元はメンズライクなデザインのショートブーツを合わせたが、朋也はどう思うだろうか。

「――ただいま、美空。待った?」

 そわそわしていた美空は、ふいに耳元でささやかれてぎょっとした。

「お……お疲れさまです。早かったですね。特等席だったので、待った気がしませんでした」
「やっぱり。美空ならそうだと思った」

 隣に腰を下ろした朋也は、パイロットの上着の代わりにカジュアルなカーディガンを羽織っている。仕事も終わり、制服姿では目立つからだろう。なにを着ても似合うひとだ。